双日:選抜人材と「強制力」のハイブリッド
双日は、全社的なデジタル人材育成に力を入れる。宮脇氏は、ピラミッド型の人材育成モデルを示し、特に上位の「応用基礎」「エキスパート層」は全社から選抜形式で育成していると説明。2027年3月期までに、応用人材(応用基礎+エキスパート)を全総合職の50%(約1,000人)へ、エキスパートは全総合職の10%(約200人)へ拡大する目標を掲げる。
特にエキスパート層には、「6ヵ月間で190時間ほどの時間をとり、きっちりとスキルを身につける」という徹底ぶりだ。
AIの浸透戦略は、こうして育成した「AIを使いたくてたまらない」リーダー人材を各組織に配置し、彼らを軸にユースケースを増やすことだ。
だが、それだけでは組織は動かない。宮脇氏は「個人が『便利だね』という世界で使うのはまだ道半ば。いかに組織立って、業務プロセスの中にAIを溶け込ませていくかが重要だ」と指摘。その施策がと「標準化」だ。生成AIを多用している組織の特長は、業務プロセスの随所に共通のプロンプトテンプレートを設けて、これらのテンプレートを使うことを組織の標準化ルールとして定めている。そして、これらのテンプレートを組織員がブラッシュアップすることで、さらに組織全体のパフォーマンスを向上させるという仕組みを作っている。
この取り組みはデジタル推進部だけでは完結しない。藤原氏が「どういった部署を巻き込んでいるのか」と問うと、宮脇氏は「なにより人事部と一緒にやっている」と答えた。デジタル部門がスキルセットをデザインし、人事部門が研修後の評価やモニタリングを担う。
さらに、この活動を支えるのが月1回の「DX推進委員会」だ。「社長が議長を務め、営業担当本部長/職能担当本部長が集まる場で、デジタル教育や活用の状況が報告される」という。藤原氏も「社長が(トップに)いるのはポイント。「トップダウンとボトムアップの取り組みを両立させるのが重量だ」とうなずいた。
ソフトバンク:「祭り」で仕掛けるトップダウンとボトムアップの循環
藤原氏も、AI活用推進には「四つの巨大な壁」が立ちはだかると指摘する。すなわち、「AI人材・風土が不足」している現場課題と、「データがぐちゃぐちゃ」「ガバナンス・ルールが整備されていない」といった全社課題だ。これらが絡み合い、「ユースケースができず業務活用が進まない」という停滞を生む。
これらは「どれか一つから着手ではなく、循環させながらそれぞれ整備を進める」必要があり、その全体像が「人材育成」「風土醸成」「ユースケース開発」「ガバナンス強化」「データ基盤整備」の循環モデルだ。
この循環を強制的に、かつ楽しく回すためにソフトバンクが2024年から仕掛けたのが“AIエージェント祭り”である。
「『1人100 AIエージェントを作る』ことが義務化されました。それぐらいの強制的なプロジェクトですが、楽しんでやろうというところで、『祭り』と掲げています」(ソフトバンク・藤原氏)
この“AIエージェント祭り”は、「学ぶ」「創る」「共有」「競う」「称える」という5つのフレームワークで推進される。
まず「学ぶ」では、全社共通の生成AIカリキュラムを必須受講とし、受講率100%を目指す。次に「創る」では、ハンズオンセミナーや対面の「寺子屋」を開催。「共有」では、Slackコミュニティでユーザー同士が情報交換し、問題を解決し合う。さらに「競う」では、コンテストで全社・部署ごとの順位を競い合う。最後に「称える」では、良い事例を社内プラットフォーム「Axross Recipe」に投稿してもらい、インセンティブを与える。
運営体制について宮脇氏が尋ねると、藤原氏は「AIテクノロジー本部(IT)と人事部門で連携し、推進した」と明かした。双日と同様、ITと人事の強固な連携が鍵となっている。
