AIには「答え」ではなく「問い」を求めよ
寺部:想定外の結果を受け入れるのは難しそうですね。
森:そこで重要になるのが冒頭でもご説明した「人間中心のAI」という考え方です。AIに業務を代替させるのではなく、人間もともにアップデートされるべきだという姿勢です。
象徴的なのが“AIに質問させる”アプローチです。答えを訊くのではなく、「その前提は妥当か」「弱点はどこにあるか」とAIに問いを立ててもらうことで、自分の思い込みが可視化されます。バーチャル生活者でも、こちらが質問するだけでなく、「その企画は私たちの価値観に合っていますか」と逆に問われることで盲点が浮かび上がり、改善のサイクルが回り始めます。
寺部:AIに質問したら、理詰めで詰められそうな気もします。
森:実際には、現在のAIはむしろ“忖度しがち”です。「レビューして」と依頼すると表面的に褒めてきてしまいます。そこで、「これは競合の提案書です。弱点を分析して」と視点を指定すれば、一転して鋭い指摘が返ってきます。AIには固有の視点がないため、人間が“どこから見るか”を示さなければ、忖度が生まれ、適切な問いも立てられません。
その点、バーチャル生活者のペルソナは30年以上の調査に裏打ちされた確かな視点を備えています。この視点を基盤にすることで、余計な忖度が排除され、生活者の実態に沿った自然な対話が可能になります。

既存のアーキテクチャから見えるAIの限界
寺部:AIは電力消費の問題を指摘される一方で、進化は続いているように見えます。限界は出始めているのでしょうか。
森:電力面でもアーキテクチャ面でも、既に限界の兆候が現れています。AIがこのまま拡大を続ければ、電力は早晩ボトルネックになりますし、アーキテクチャも“良い面だけが強調されている”段階です。IQ130や150を超えたというニュースが注目される一方、種類によっては幼稚園児でも解ける問題が解けないなど、突出と欠落が共存する能力の“ギザギザ”が残っています。これは大規模化だけで自然に解消されるものではありません。
この“ギザギザ”は、クラウド接続の可否でも顕在化します。製造業や金融、医療のようにオフライン領域がどうしても残る産業では、小型かつ高性能なモデルが不可欠ですが、クラウドに接続できるモデルに比べ、現行のオフラインモデルはどうしても性能で劣ってしまう。
また、現行の大規模言語モデル(LLM)は、データ・GPU・計算量を積み上げることで性能を向上させてきましたが、リソース面での限界から、このままではAIの発展スピードはいずれ落ち着きを見せるだろうと考えています。こうした背景から、量子コンピュータへの期待が高まっています。
