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量子産業の未来

AI黎明期と今の量子の熱気は似ている。博報堂DYグループCAIO森正弥氏に聞く、量子×AIの未来像

ゲスト:博報堂DYホールディングス 森正弥氏

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20年後に勝つために企業が今取り組むべきこと

寺部:そのような20年スパンで考えたとき、企業は量子コンピューティングに対して何をすべきでしょうか。

:最重要なのは、大学との早期連携と人材育成です。NVIDIAがかつて、CUDA(大量計算をGPUで処理するためのプラットフォーム)を大学に開放しながら大規模投資を進めた例は象徴的ですし、私自身も楽天グループ在籍時にAI・機械学習人材を戦略的に採用し、組織として知を蓄積してきました。その蓄積があったからこそ、2020年以降の生成AIの波に迅速に適応できたのだと思います。

 技術人材の育成には10年では足りません。量子技術が本格化した段階で競争優位に立つには、今動き始めなければ間に合いません

寺部:早期の人材育成が成功につながった例はありますか。

:AI領域でいえば、OpenAIが典型です。同社は元々強化学習やロボティクスを志向していましたが、2017年にGoogleがTransformerを発表した後、LLMへと大きく舵を切りました。ですが、単にLLMの開発に後から参加したのではなく、彼らが元々持っていた強化学習の知見を軸に「人間ならどう判断するか」をモデル構築のプロセスに組み込む方向へ進んだのです。弁護士、心理学者、社会学者など多様な専門家を巻き込み、人間の判断基準を組み込んで学習するプロセスとして確立したのが、RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)です。

 ChatGPTが社会に浸透した理由は、大量データを活用したからではなく、「人間の知」と「強化学習」を重ねた独自アプローチにあります。実際、当時様々な高性能なモデルが存在しましたが、広く受け入れられたのはChatGPTでした。その背景には、この構造的な違いがあったと言えるでしょう。

 さらに昨年9月、OpenAIは因果関係に基づき推論する“推論AI”を発表しました。これは1950年代から追求されてきたAI像に一段と近づくものであり、その原動力もまた強化学習です。データ依存のみに陥らず、人間の知を強化学習として組み込むという一貫した設計思想が、二度のブレイクスルーにつながったと考えています。

量子・AI時代の本質的な備えは「自社の強み」を言語化し続けること

寺部:では、そうした投資を行わなかった企業はどうなりますか。

技術の中身を理解していなければ、そのポテンシャルもユースケースも描けません。その結果「使いこなせないユーザー」として取り残されるリスクは高まります。重要なのは、単に流行を追うことではなく、自社の強みとどう結びつけるかという視点です。OpenAIも、強化学習の知見をLLMに掛け合わせることで突破口を開きました。自動運転なども同様で、バッテリー、センサーや車体設計といった周辺技術との組み合わせが価値創出を支えています。量子も単体の理解では意味がなく、自社固有のアセットと掛け合わせて初めて事業価値になります

 その前提として、多くの企業で整備が遅れているのがデータ基盤です。データの質が低ければ、どれほど高度な技術を導入しても活用できません。データの粗さが原因でプロジェクトが停滞する例は今も後を絶ちません。

寺部:では最後に、量子や量子AIの時代に向けてビジネスパーソンは何を備えるべきでしょうか。

:「実用化時期」や「用途」だけを議論しても不十分で、肝心なのは量子技術を事業に落とし込むことです。

 その出発点となるのが、自社の強みを深く理解し、言語化し、体系として磨き続けることです。一見抽象的に思えるかもしれませんが、量子やAIと向き合ううえで最も本質的な準備だと考えています。

 今後、AIエージェントは社内システムから顧客接点まで広く組み込まれます。そこで問われるのは、エージェントがブランド価値を損なわず、むしろ高める方向で機能しているかどうかです。ブランドパーソナリティや言語体系がAI時代に適合していなければ、導入そのものがリスクになりかねません。一方、ブランド構造を国や地域単位まで精緻に設計してきた企業であれば、その蓄積を軸に、AIエージェントをブランド強化の力へと変換できます。

 最終的に“意志”を与えるのは人間です。量子やAIの時代に備えるとは、個人レベルで人間の本来の強みとは何かを考えるのと同じように、企業レベルにおいては、自社の強みを理解し、言語化し、体系化し、磨き続けることにほかなりません。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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