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デザイン思考から「システムのデザイン」へ BIOTOPE山田氏が説く、リーダーのための「知の道具」

ゲスト:BIOTOPE 山田和雅(やまだ・かずまさ)氏

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システムのデザインの第一歩は「現状(As-is)」を捉えること

栗原:では、プロセスの前半にあたる「現状(As-is)を捉える」フェーズについて教えてください。

山田:前半の目的は、複雑なシステムの現状を分析し、課題を生み出し続けている構造、つまり「As-isのアーキタイプ」を特定することです。具体的には4つのステップがあります。

システムのデザイン
出典:山田和雅『戦略デザイナーが伝えたい、システムのデザイン』(クロスメディア・パブリッシング、2025)/クリックすると拡大します

■エージェントを捉える(Step1)

 まずはテーマとするシステムにどのような「登場人物」=「エージェント」がいるのかを捉えます。

■関係性を捉える(Step2)

 洗い出したエージェント同士がどうつながっているのか。「親和性」でグルーピングし、「因果関係」で矢印を結びます。

■全体構造に位置づける(Step3)

 それらの関係性を、「マクロ・メゾ・ミクロ」の入れ子構造や時間軸の中に配置し、システム全体の地図を描きます。ここで「システムダイナミックスマップ」や「インフラの解剖図」といったツールが活躍します。

■課題のアーキタイプを捉える(Step4)

 ここが前半のクライマックスです。システムの中で悪循環を起こしている「型(パターン)」を見つけ出します。この型を表現する名前をつけたものを、本書では「アーキタイプ」と呼んでいます。

悪循環を生み出す「構造(アーキタイプ)」を把握する

栗原:「アーキタイプ」という言葉がキーワードになりそうですね。

山田:おっしゃるとおりです。私が関わった「精神・発達障害者の就労」プロジェクトの具体例[1]でお話ししましょう。

「精神・発達障害者の就労」プロジェクトの具体例
出典:山田和雅『戦略デザイナーが伝えたい、システムのデザイン』(クロスメディア・パブリッシング、2025)/クリックすると拡大します

 この事例でStep1-3の現状分析を進めると、障害者の就労支援において「ケアを投資ではなくコストとして捉える」という構造が見えてきました。ケアをコストとみなすと、企業はそれを最小化しようとします。すると、画一的なマネジメントになり、個人の能力が開花せず、結果として生産性が上がらない。生産性が上がらないから「やはりコストだ」という認識が強化される。

 この課題を再生産し続けている「ケア=コスト」の循環構造こそが「As-isのアーキタイプ」です。敵は特定の上司や制度ではなく、この「構造」なのです。これを特定できて初めて、私たちは本当の意味での解決策を考え始められます。


[1]参照元:『官民共創HUB ケアノベーションマネジメントコンセプトブック

システムの意図から「To-be(未来)」を構想し世界を変える

栗原:現状の構造(As-is)が見えた後、どのようにしてあるべき未来(To-be)へと変えていくことができるのでしょうか。

山田:後半のフェーズは、未来を創造するプロセスです。ここで重要なのは、すぐには解決策(How)に飛びつかないことです。As-isのアーキタイプに対して、単なる対症療法を行ってもシステムは変わりません。

 まず必要なのは「システムの意図」のリデザイン(Step5)です。自分たちが本当に大切にしたい価値観やビジョンに立ち返り、「もし制約がなかったらどんな世界を作りたいか?」を妄想します。これを「ビジョン思考」で行います。

栗原:そこからどうやって具体的な解決策に落とし込むのですか。

山田:ビジョンをベースに、新しい「To-beのアーキタイプ」を構想します(Step6)。

 先ほどの障害者就労の例で言えば、「ケア=コスト」という古いアーキタイプに対し、「ケアとイノベーションを融合させる」という新しいアーキタイプを描きました。ケアを手厚くすることが、個人の創造性を引き出し、企業のイノベーションにつながるという新しい循環モデルです。

 そして、この新しいアーキタイプを実際に動かすための具体的な「フィーチャー(介入策)」をデザインします(Step7)。ここで初めて、新しいサービスや、評価制度、オフィスの空間デザインといった具体的な「モノ・コト」が登場します。

栗原:このアプローチは、ビジネスだけでなく、公共サービスの領域でも有効そうですね。

山田:まさにそうです。イノベーションは今、モノ(1.0)、サービス(2.0)、理念(3.0)の次元を超え、システム全体を扱う「イノベーション4.0」の段階に来ています。

システム全体を扱う「イノベーション4.0」
出典:山田和雅『戦略デザイナーが伝えたい、システムのデザイン』(クロスメディア・パブリッシング、2025)/クリックすると拡大します

 私の兄弟子であるディア博士は、これからのイノベーションは公(パブリック)と民(プライベート)の「マッシュアップ(融合)」にあると提唱しています。たとえば、米国の「ダイヤル911」のリデザイン事例では、通報データを匿名化して民間と共有し、防犯サービスを開発するような、官民の境界を溶かすアイデアが生まれています。

 最後に「ムーブメント」を起こす(Step8)ことで、これらの新しいアーキタイプを社会という巨大なシステムに実装し、うねりを作り出します。

システムのデザイン
出典:山田和雅『戦略デザイナーが伝えたい、システムのデザイン』(クロスメディア・パブリッシング、2025)/クリックすると拡大します

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「司令官」から「オーケストレーター」へ。イノベーション4.0時代のリーダーシップ

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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