創業者から受け継がれる戒め、心の「4つの病」
池側:過去に実施した社内アンケートで、FP&A組織の「分析・診断・治療」の能力や当事者意識が弱みとして指摘されたとお聞きしました。この厳しい指摘をどのように改革へと繋げたのでしょうか。
多田:当社には「4つの心の病(自惚れ・驕り・甘え・マンネリ)」という戒めがあります。組織が固定化すると生まれる現状維持バイアスを打破するため、あえてメンバー全員に「自己観照」を促しました。
具体的には、事業部のリーダーたちから受けた厳しい評価を、隠すことなくそのままメンバーに突きつけました。「我々は事業パートナーだと思っているが、現場からは単なる集計屋だと思われているぞ」と。このギャップを可視化することで、「このままでは自分たちの存在意義がない」という危機感を共有しました。そこから、「知(知識)・技(技能)・態(態度)」の3つを兼ね備えた、本当の意味で「会社を勝たせるプロフェッショナル集団」を目指す変革がスタートしたのです。
マネジメントコントロールシステム(MCS)の実践
池側:FP&A組織は、具体的にどのような「マネジメントコントロール」を担っているのでしょうか。
多田:私たちの最大のミッションは、中期経営計画で掲げた高い財務目標を、現場のアクションへと落とし込み、確実に達成させることにあります。そのための武器が「マネジメントコントロールシステム(MCS)」の設計と運営です。
具体的には「予算統制」「予算編成」「投下資本回収管理」という3大業務を軸にしています。これらを単なる事務作業にせず、それぞれを「8つのステップ」として徹底的に型化しています。
池側:その「型」によって、現場の動きはどう変わるのですか。
多田:たとえば「予算統制ステップ5の業績報告」であれば、単に予算と実績の差異を報告するだけでは最低レベルに過ぎません。そこから「なぜその差異が出たのか」を現場に徹底的に問い合せ、背後にある真の要因を突き止める(診断)。そして、目標達成のために「次月以降、どのような施策を打つべきか」を事業部長と一緒に策定する(治療)。ここまでやって初めて業績報告が完了したと言える、という定義を全員で共有しています。
また、「投下資本回収管理」においても、単なるキャッシュフローの予測に留まらず、事業ごとにROIC(投下資本利益率)の視点を取り入れ、マーケティング投資や設備投資が本当に価値を生んでいるかを厳しくモニタリングする準備を進めています。
これらすべての活動において、コントロールセンターが標準化されたデータを提供し、FP&Aがそのデータに基づいて意思決定者と「良好な関係」を築きながら助言を行う。この泥臭い対話の積み重ねこそが、経営の知恵を組織の隅々まで行き渡らせる「神経細胞」としての役割なのです。
未経験から半年でプロを育てる「入江塾」
池側:FP&Aには高度な専門性と現場感覚の両方が求められますが、どのように教育されているのでしょうか。
多田:それが、入江が主宰する「入江塾」です。実戦経験が最も豊富な入江を「教育育成担当」として専任で配置し、直接指導する形をとりました。
入江:30年以上培ってきた「コントローラーとして成功する勘やコツ、急所(How to)」をレシピ化し、アルゴリズム化しました。塾生は、経理未経験の営業出身者や中途採用メンバーなど多様です。彼らを半年間でプロとして各事業部へ送り出すのが私のミッションです。大きく3つの柱で運営しています。
一つ目は「全体研修」。予算統制などの3大業務について教育プログラムに基づいた基礎知識を叩き込みます。二つ目は「塾生集合勉強会」。週に1回、塾生同士が集まり実際の事例を元に「このときはこの切り口で分析診断すべき」といったような実戦的なディスカッションを行います。三つ目が「個人ガイダンス」。毎週1回、私と塾生が1時間マンツーマンで向き合い、資料の作り方から、会議でのプレゼン手法、人間関係の築き方まで、きめ細かく指導します。
池側:専任の教育担当が週1回もマンツーマンで指導するというのは、驚くべき投資ですね。
入江:育成には「6段階」があると考えています。知る(知らせる)、わかる(わからせる)、やってみる(やらせてみる)、できる(ほめる)、成果につながる(つなげてもらう)、そして最後に「達成感を味わう(味わってもらう)」。このステップを段階的に伴走することで、未経験者でも自信を持って現場に立てるようになります。単なる知識・技能・態度の伝達ではなく、「ビジネスパートナーを勝たせるための最善の選択」を伝承する場所、それが入江塾です。
