「作って終わり」ではない。販売まで責任を持つ覚悟
古澤:ME制の最大の特徴は、バリューチェーンの川上から川下まで一気通貫で担う点にあると思います。一般的な新規事業コンテストやインキュベーションプログラムとの違いはどこにあるのでしょうか。
谷口:最大の違いは、「商品化し、売り、利益を出すところまで責任を持つ」という点です。
多くの新規事業プログラムは、アイデアコンテストやプロトタイプ作成(PoC)で終わってしまうことが少なくありません。しかしME制は、実際に量産し、市場に投入し、その販売結果まで見届けます。そのため、ME制のビジネスレビューは、単なるゲート通過の会議ではありません。
経営層からは「本当に作れるのか?」「いくらなら売れるのか?」「投資回収はできるのか?」といった、技術実現性、顧客価値、P/L、出口戦略など細かな観点から問いを投げかけ、チームの学習を促す“対話型レビュー”としています。また、レビュー会議に限らず、日常的に経営層とリーダーが会話する仕掛けも設計しています。こうした対話を積み重ねることで、リーダー自身も自然とより高い目線で事業や商品を見ることができるようになります。
これらの、レビュー会議やコミュニケーションの場の議事録は4年分すべて会話形式で保存し、後続チームが学習できる組織資産として活用しています。
古澤:まさに「マイクロエンタープライズ(小さな企業)」の経営ですね。チーム編成が重要だと思いますが、どのような特徴があるのでしょうか?
谷口:はい。通常の商品開発では、開発の後半になってから工場や販売部門が関わることが多いですが、ME制では「フロントローディング」を徹底しています。これは、商品開発の初期段階に重点を置く進め方で、開発期間の短縮とコスト削減、品質向上につながるだけでなく、チームとして解くべき本質課題の目線を早期にそろえるための方法でもあります。
具体的には、最初期のお客さまのインサイトを探る段階から、技術者や製造担当、マーケターが参加します。これにより、「マーケティング視点ではこう売りたい」「製造視点ではこのコストで実現できる」「技術視点ではこのようなことが実現できる」といった複数の論点が初期段階で交差するようになります。認識のずれによる手戻りを防ぐとともに、価値の定義が一貫したまま開発が進み、コンセプトの純度を保ったまま商品化に進むことができます。
こうしたフロントローディングの実践が、結果としてチーム全体の越境行動や主体性を引き出し、従来のバケツリレー型では得られなかったスピードと納得度を生み出していると感じています。
大企業の中にある「暗黙知」を「形式知」へ
古澤:私もご一緒させていただきましたが、制度設計にとそまらず、MEチームへの個別支援も手厚い印象があります。
谷口:私のような事務局メンバーが「プログラムマネージャー」として、プロジェクトの伴走支援を行います。これは単なる管理業務ではなく、組織内外の境界をつなぐ「バウンダリースパナー(Boundary Spanner)」としての役割です。知財などの明文化された形式知から、実はこういう経験をした社員がいるといった暗黙知など、どんな知見がどこの誰にあるのか。そんな社内ナレッジも徐々に蓄積しつつあります。
MEチームは既存の事業部のルールや慣習と衝突することが多々あります。その際、私たち事務局が間に入り、経営層の意図を翻訳して伝えたり、既存部門との調整を行ったりして、チームが挑戦しやすい環境を整えています。利害関係者が多く、それぞれの業務が複雑に影響し合い生まれていた構造的な課題もありました。そこはSYMBIにサポートしてもらいながら、システミックデザインで可視化したマップを使い、優先すべき課題やアクションの整理を都度行っています。
また、独自の評価制度も導入し、短期的な業績だけでなく、挑戦のプロセスや顧客価値創出への貢献度を評価する仕組みも運用しています。
