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パナソニックが成熟市場で挑んだ、バケツリレー型商品開発からの脱却 縦割り組織から越境行動を生むには?

ゲスト:パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 谷口旭氏/パナソニック マーケティング ジャパン株式会社・首都圏社 北村洋平氏

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スチームオーブンレンジ ビストロに見る、コモディティ化の脱却

古澤:ここからは具体的な事例について伺います。今回、ご紹介いただくのは、北村さんがMEチームのリーダーとして関わったスチームオーブンレンジ ビストロの新商品開発についてです。どのような課題からスタートしたのでしょうか。

スチームオーブンレンジ ビストロ
資料提供:パナソニック株式会社「スチームオーブンレンジ ビストロ」

北村:電子レンジは、すでに世の中に普及しきっている成熟商品です。「温める」「焼く」「煮る」「蒸す」といった機能は、既に相当高いレベルにきています。そのような中、事業責任者から「電子レンジの提供価値を刷新せよ」という非常に難しいテーマを与えられました。既存の延長線上ではない、新しい価値を創出する必要がありました。

古澤:成熟市場でのイノベーションは非常に難易度が高いですが、どのようなアプローチをとったのですか。

北村:まずチーム編成から変えました。多くの場合、まずは商品企画と技術開発が主導して進めることが多いのですが、今回はプロジェクト組成時からマーケティング、要素技術開発(R&D)、デザイン、そしてライフリサーチのメンバーを集め、ワンチームを結成しました。ME制では、職能の順番で議論するのではなく、「誰の、どんな課題を解くのか」という起点を全員で共有できたことが、その後のブレイクスルーにつながりました。

 私たちがターゲットとしたのは、共働きで子育て中の世帯の「食生活」。彼ら・彼女らの食生活の実態を深掘りする中で、「子供は揚げ物が大好きだが、家で作るのは手間も片付けも大変でハードルが高いからできない」という強いペイン(悩み)が見えてきました。

谷口:従来の電子レンジでも「ノンフライ調理」はありましたが、どうしても「揚げ物風」の域を出ない部分がありましたよね。

北村:そうなんです。そんなお客さまのペインを解消するために、組成したワンチームが一体となって、「本物の揚げ物の美味しさ」を電子レンジで実現することにこだわりました。

 ヒーターの熱制御とファンの風量制御を極限までチューニングし、裏返さなくても両面がサクサクに揚がる技術を新たに開発しました。これは、技術者が「技術的に可能か」だけで判断するのではなく、マーケターが「この仕上がりならお客さまは喜ぶ」と目標を設定し、プロジェクト初期から目線を合わせた状態でワンチームで検討を重ねたからこそ実現できたブレイクスルーでした。

古澤:マーケティング担当者が検討初期から関わることで、どのようなメリットがありましたか。

北村:最大のメリットは、ターゲット顧客とそのお客さまに届けるメッセージがブレなかったことです。今までの「バケツリレー型」では、商品企画が設定したコンセプトを、最後に販売側が「売りやすい言葉」に変換してしまい、元々めざした提供価値が伝わりきらないことが往々にしてありました。

 しかし今回は、チーム全員が「忙しい共働きで子育て中の世帯の食卓に、手間なく手づくりのような美味しい揚げ物を届ける」というゴールを共有していたため、そのコンセプトを作った時から、機能開発、プロモーションまで一貫したストーリーを描くことができています。結果として、高価格帯の商品でありながら、目論み通り多くのお客さまに支持されるヒット商品となりました。

縦割り組織からポジティブな越境行動を生む組織へ

古澤:ME制では、既存事業の枠を超えた新しい挑戦も生まれているそうですね。

谷口:はい。もう一つの象徴的な事例として、口腔ケア商品ジェットウォッシャー ナノクレンズがあります。これは、「ジェットウォッシャー」という水流で歯間を洗浄する技術を応用したものですが、開発当初、歯科業界の常識では「水流だけで歯垢(プラーク)は除去できない」というのが通説でした。

口腔ケア商品「ナノクレンズ」
資料提供:パナソニック株式会社「ジェットウォッシャー ナノクレンズ」

古澤:業界の常識への挑戦ですね。

谷口:ナノクレンズの開発は、ME制が意図していた“越境”が最も現れた事例でした。リーダーの強い想いを原動力に、「お客さまの口腔環境を本気で良くしたい」という一心で、社内の技術を探索し、技術開発部門が探索していたナノサイズの気泡を発生させる技術にたどり着きました。

 当時、技術開発部門は水流を強化する方法としてこの技術に辿り着いていました。しかし、商品化実現のためには多くの困難があり、開発は進めているが商品企画にならない状態でした。一方、チームが何をすべきか考えた結果、「ブラシのように当て方が難しくなく、簡単に歯垢を取れるツール」を作るという目的で、この技術とつながり、職能の壁を越えてMEチームが仮説検証とエビデンス取得を積み重ねる中で実現につなげていきました。

 当初は社内でも「水流だけで歯垢をとるのは無理だ」という声も多くありましたが、歯科医師へのデモンストレーションも行う中で、「これならいける」というエビデンスを積み上げ、商品化にこぎ着けました。

北村:この事例が示しているのは、ME制が単なる商品開発プロセスの変更ではなく、社員の「マインドセット」を変える仕組みになっているということです。

 従来の縦割り組織では、「自分の担当範囲をやりきる」「上司の指示を最優先に」という意識になりがちでした。しかしME制では、自分の専門外の領域にも踏み込み、部門を越えて意見をぶつけ合うことを推奨しました。実際、私が担当した電子レンジのプロジェクトでも、若手の技術者が営業担当に「もっとこういう売り方はできないか」と提案したり、逆に営業が技術的な課題に踏み込んだりと、ポジティブな越境行動が頻繁に見られました。

谷口:アンケート調査でも、ME参加メンバーの約6割が「意識・行動の変化」や「スキル成長」を実感したと回答しています。

 「お客さまの声を直接聞くことで、開発の方向性に確信が持てた」「部門を越えて協力することで視野が広がった」といった声が多く寄せられており、個人の成長機会としても機能しています。

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データが語る「組織学習」、本来の商いへの回帰

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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