旭化成の伝統的な「事業管理」とFP&Aへの進化
池側千絵氏(以下、池側):旭化成は、繊維から始まり、ケミカル、住宅、ヘルスケアと、日本企業の中でも極めて稀なほど大胆な事業構造の転換を成功させてこられました。まずは、その変遷の中で経理・財務部門がどのような役割を担ってきたのか、木住野さんのこれまでの歩みとともにお聞かせください。
木住野元通氏(以下、木住野):私は1987年の入社ですが、キャリアの2/3は営業や事業企画、事業部長といった「事業側」に身を置いてきました。弊社において経理、財務、経営企画という機能は、歴史の中で合体と分離を繰り返してきましたが、本質的には経営の意思決定に直結する一連の機能として捉えられています。
旭化成の大きな特徴は、古くから「事業管理」という言葉でFP&A機能を定義し、現場に深く入り込んできたことです。私が経理・財務部長を務めている現在も、グループ全体の制度会計や税務、財務に加え、マテリアル領域の事業に関しては、私の所管で「事業管理」の機能を保持しています。単なる数字の集計ではなく、事業と一体となって未来を管理するのが私たちの伝統的なスタイルです。
1987年入社。財務部門を振り出しに、キャリアの多くを事業側(営業、事業企画、事業部長など)で歩む。2022年より現職。事業視点を持った経理・財務組織の統括と、グループ全体の事業ポートフォリオ変革を支える管理会計体制の構築を牽引している。
池側:経理・財務部長が事業部長を経験されているというのは、非常に心強いですね。土家さんと佐藤さんは、どのような役割を担われているのでしょうか。
土家啓路氏(以下、土家):私は入社以来10年ほどマテリアル領域の事業管理を担当し、その後M&Aコンサルティングへの出向を経て、現在は経営企画部で「グループFP&A」を担当しています。CFOに対し、全社の事業ポートフォリオをどう最適化すべきか、数字の面から提言を行うのが主な役割です。
2013年入社。10年間にわたりマテリアル領域の事業管理に従事。KPMG FASへの出向を経て、2023年より現職。グループ全体の事業ポートフォリオ評価や中計策定、投資モニタリングの高度化を担当している。
佐藤要氏(以下、佐藤):私はキャリア入社で旭化成に来ましたが、一貫して「事業管理室」に所属し、現場の事業部とコーポレートをつなぐ橋渡し役を担ってきました。現在は機能性樹脂などの事業管理を担当しており、現場の一次情報を吸い上げ、それを経営の言葉に翻訳して提言する、いわば「事業の参謀」に近い立ち位置で動いています。
キャリア入社。自動車メーカーでの経理経験を経て、2019年より旭化成の事業管理室に所属。基礎化学品から機能性樹脂まで幅広い事業の管理会計を担い、現場に密着した意思決定支援を実践している。
事業部と一体化し、CFOへ直結する「ダブル・レポーティング」の強み
池側:日本企業の多くは、管理部門が事業部から切り離され、「数字の報告を受けるだけ」の関係になりがちです。旭化成のFP&A組織は、どのような構造になっているのでしょうか。
木住野:マテリアル領域においては、非常にユニークな「ダブル(デュアル)・レポーティング」体制をとっています。具体的には、事業管理のメンバーは事業側に席を置き、事業部長を支えながら日々の管理会計を回します。しかし、人事権やレポートのメインラインは最終的にグループCFOに直結しているのです。
これにより、事業部の「身内」として現場の状況を深く理解しつつ、コーポレートとしての「客観的な規律」も維持できる。このバランスが、健全な牽制機能と深い事業理解を両立させる鍵になっています。
池側:工場の経理はどうなっているのですか。
木住野:工場にもコーポレートの経理スタッフが籍を置いています。メンバーは工場の原価管理や制度会計だけでなく、地元の税務対応まで幅広くこなします。現場の「泥臭い」数字を一番分かっているのがこのメンバーであり、そこからキャリアをスタートさせることが、旭化成のFP&Aのアイデンティティになっています。
土家:以前、私が事業管理にいた時も、やはり現場の営業や企画担当者と机を並べて議論していました。そこで得られる「なぜこの数字になったのか」という一次情報があるからこそ、経営企画へ上がってくる数字に命が吹き込まれるのだと感じています。
