日本企業の強みは「人のたゆまぬカイゼン」にある
小宮:技術が進化し、機能がコモディティ化する中で、あえて「人間の感情」という軸で競争力を生み出そうとする姿勢は非常にユニークです。なぜこれほどまでに「人」にこだわるのでしょうか。
池田:工場の未来には、二つの道があると思っています。一つは、AIで自動化され、ほとんどの作業をロボットが実行する工場。もう一つは、人と人が対話をしながらクリエイティブなアイデアで工程を作り込んでいく工場です。エンジニアとしては前者が合理的かもしれませんが、日本の自動車産業の強みは、後者のような「現場の人のたゆまぬカイゼン」にありました。
全自動化し、人を排除したシステムは、コストダウンの手段が設計変更や部品代の削減などしかなくなってしまいます。しかし、工場そのものが知恵を出し、競争力を生み出し続けられるのが日本の強み。それを支えるのは、やはり「人」なんです。
小宮:なるほど。自動化は手段であって、目的は「人の力を最大化すること」にあるのですね。従来の「産業用ロボット」と、池田さんたちが目指す「共生ロボット」では、具体的に何が決定的に違うのでしょうか。
池田:その違いを整理したのが、以下の図です。
左側の「産業ロボット」はプログラムベースで知能レベルも限定的ですが、右側の「共生AIロボット:Jullie 2.0」では、社会生活・感情・認知の共生を主な領域としています。特筆すべきは「人Interaction(インタラクション)」の進化です。単なる接触時の安全確保だけでなく、感情や文脈、さらには「共感」までを含むコミュニケーションが可能になります。社会的役割も、労働力の代替ではなく「パートナーとして共に暮らし、人の能力を高める存在」として定義しています。
高田:その「共感」が人に与える好影響は、決して精神論ではありません。以下の図にあるように、人からの働きかけに対しロボットが「共感」を示し、逆にロボットからの働きかけに人が「共感」を返す。
このサイクルが生まれると、コミュニケーションの質が上がり、他者のニーズへの敏感さや多視点的な理解が深まります。結果として、心理的ストレスが軽減され、より創造的で充実した働き方・生き方へとつながっていく。私たちは「共感性」こそが、人の能力を最大化させるブースターになると考えています。
「師匠と弟子」のデジタル化──実践知をAIで継承する技能伝承の形
小宮:ドキュメントの指示書を見ながらやるのとは、全く違う体験ですね。
池田:ええ。そして人が部品を組み付けると、ロボットがそれを確認してやさしくうなずき、作業を引き継ぐといった協働が生まれます。この相互成長のサイクルこそが重要です。AIは継続学習と記憶によって進化し、はるか遠くにいる熟練者のノウハウ(実践知)をAIを通じて伝えることも可能になります。
高田:人間は実は非常に優秀なアクチュエーター(物理的な動作を行う装置)であり、頭脳です。複雑な環境下での意思決定や、言語・画像入力を伴うインタラクションにおいて、AIは人の可能性を引き出すパートナーとなります。この「人らしさ」を活かした働き方こそが、深刻な労働人口不足への一つの解になると信じています。
