研究開発から社会への実装という「イノベーション組織の役割」
小宮:こうした先鋭的な取り組みを行うクラウドサービス開発部は、デンソーという巨大組織の中でどのような立ち位置にあるのでしょうか。
池田:私たちは研究開発センターに属しており、いわゆる「イノベーション組織」です。技術・現場・社会を円滑につなぎ、現在の延長線上にない未来をどう描き、社会にインストール(実装)していくかが役割です。
小宮:単に技術を磨くだけでなく、新しいビジネスモデルや社会のあり方を提示しているように見えます。
池田:そうですね。2023年にJullie Projectを始動させて以来、工場カフェや日本酒角打ち、バーテンダーデモなど、様々な実証実験を重ねてきました。現時点では「人共生ロボット」の市場は確立されていませんが、体験を通じて「うちの現場でも使えるかもしれない」と考えるきっかけを作っています。
私たちが提案したコンセプトが、AMR(自律走行搬送ロボット)やアームロボット、ドライブエージェントなどの各領域に波及し、多くの人がAIロボットと共感して自分らしい価値を手に入れられる社会を目指しています。
中期経営計画と合致する「人共生ロボット」
小宮:日本企業では「正解がない新しい分野」への投資は敬遠されがちですが、デンソーがこうした挑戦を後押しできているのはなぜでしょうか。
池田:デンソーは2030年中期経営計画「CORE 2030」において、社会に新たな価値を提供するための「3つの成長戦略」を掲げています。
第1の柱である「商品づくりの強化」、第2の柱である「モノづくりの革新」、そして第3の柱である「人づくり・パートナー共創」。私たちのフィジカルAIやJullieの取り組みは、まさにこれら全ての柱に関わる重要な活動として位置づけられています。
高田:特に第2の柱である「モノづくりの革新」では、単なる合理化・効率化ではなく、現場に宿る膨大な「実践知」とAIを融合させることを目指しています。
AIに現場の実践知やデータを実装することでQCD(品質・コスト・納期)を圧倒的な水準まで高め、人はより高付加価値な業務へとシフトしていく。これが私たちの狙う“新”価値への転換です。
池田:象徴的なのが、2027年に竣工予定の「善明南(ぜんみょうみなみ)新工場」です。ここでは「人の動作から学び続けるフィジカルAI」を実装し、AIと共に成長する高度な人財を育成する計画が進んでいます。
この新工場のコンセプトは、リアルな場での実践を通じて、人と機械が互いに学び合い、進化し続けるモノづくりを実現することにあります。
高田:また、第3の柱にあるように、モビリティ領域だけでなく、農業などの拡大貢献領域へとパートナー連携を広げ、社会全体で「人づくり」に貢献していくことも私たちの大きなミッションです。
池田:今や会社全体として、人の能力を高める「人共生ロボット」の重要性が認識されています。効率化一辺倒だった時代から、共感し合い感性を高め合う「人中心」の経営に大きくシフトしてきています。
小宮:経営層が「効率の先にある価値」を信じ、具体的な成長戦略の柱として据えているからこそ、研究開発の現場でもこれほど大胆な挑戦ができるのですね。
池田:そう思います。技術は追いかければキリがありませんが、「人を大事にする」という一本の軸さえ決めておけば、自ずとテクノロジーの使い道は見えてきます。振り回されるのではなく、自分たちの目的に合わせてAIを使いこなす姿勢が不可欠です。
