AIモデルはコモディティ化する──差をつけるのは「何を渡せるか」
基調セッションの冒頭に登壇したアトラシアンの朝岡絵里子氏は、「現在、働くことの概念そのものが再定義され、まったく新しい『AIネイティブな組織』が生まれている」と切り出した。
複数の外資系ソフトウェア企業において、SE、プロダクトマーケティング、ビジネスディベロップメント、パートナー営業など、テクニカルとビジネスの両面にわたる役割を経験してきた。現在はエンタープライズ領域に加え、セルフサービスでの利用開始からエンタープライズでの本格展開までを一気通貫で支える成長モデルやユーザーコミュニティ支援にも携わり、プロダクト、パートナー、顧客をつなぐマーケティング活動を担当している。
AIネイティブな組織とは、人間とAIエージェントが同じワークフローで協働する組織だ。AIが実行プロセスを担うことで、人間は判断やトレードオフの見極めなど「人間にしかできない領域」へシフトする。
しかし、AIが自律的に動くには「プロジェクトの経緯」「決断の背景」といった「組織の記憶」が不可欠だ。朝岡氏は現在のトレンドに一石を投じた。
「『どのAIモデルを使うか』で競争優位性は決まりません。モデルの知識や推論力はすでにコモディティ化しています。勝敗を分ける唯一無二の資産は『コンテキスト(組織の記憶)』です」(朝岡氏)
アトラシアンが提示する方程式は「インテリジェンス(AIモデル)×コンテキスト」だ。同社はこの方針のもと、業務で蓄積された組織の記憶のネットワークを「Teamwork Graph(チームグラフ)」と定義。これを基盤としたAIアシスタント「Rovo(ロボ)」を提供している。
検索から自律的アクションへ、進化する「Teamwork Graph」の実力
続いて登壇したレイ・ワン(Rae Wang)氏は、Teamwork Graphにおけるコンテキストの蓄積と活用法をデモも行いながら解説した。
アトラシアンのエンタープライズ プロダクト部門の責任者であり、情報保護、デプロイオプション、データガバナンス、パフォーマンス、スケーラビリティ、移行といった主要なエンタープライズ分野における製品投資を統括している。アトラシアン入社前は、GoogleにてAndroidセキュリティおよびGoogle Distributed Cloudのプロダクトマネジメントディレクター従事。それ以前は、マイクロソフトでプロダクトおよびエンジニアリングの両方の職務に従事。レイはニューサウスウェールズ大学でコンピューター工学の学士号を取得している。シアトルで24年間勤務した後、最近シドニー地域に戻り、現在は同地を拠点としている。
RovoはSalesforceやGoogleドライブ、Microsoft Teams、Jira、Confluenceなど、社内で使用している多くのツールと連携できる。同期速度は従来の40倍に高速化され、変更は10分以内にインデックス化される。
レイ氏が強調するのは、これが検索に留まらずAIエージェントの自律的な「アクション」へつながる点だ。
デモでは、Jira上でのソフトウェア開発プラン作成が披露された。新機能の概要を入力すると、RovoがTeamwork Graphから関連情報を探索。さらに「コードインテリジェンス」により、複数リポジトリにまたがるコードの意図や関数の意味まで理解する。
「Rovoはドキュメントとコードの双方から情報を得て、技術的選択肢の推奨理由まで提示します。さらにConfluenceから過去のアーキテクチャ図を見つけ、自動で新しい提案図に更新して変更履歴まで記録するのです」(レイ氏)
また、コードの文脈から最適な担当者を推薦する「インテリジェントな作業分解(WBS)スキル」も向上。タスクがエージェントに割り当てられると、ステータスが自動で「進行中」になり作業が開始される。この「AIプランナー」は、まもなく利用可能となる。
さらに、ブラウザーの閲覧履歴などと融合した組織向けブラウザー「Dia(ディア)」や、外部AIアプリからアトラシアンのコンテキストを利用可能にする「Teamwork Graph MCP / CLI」も発表。社内ベンチマークでは、Teamwork Graphを使用することでAIの回答品質が44%向上し、トークンコストが48%削減されたという。
レイ氏は最後に次のように語り、講演を締めくくった。
「エンタープライズAIの時代に勝利する企業とは、コンテキストをしまい込む企業ではなく、それが最もアクセスしやすく、つながり、有用である企業です。皆さんは単にソフトウェアを選んでいるのではありません。『どのような企業になりたいか』を選んでいるのです」(レイ氏)
