承認に時間がかかる組織を脱せるか。意思決定・職務権限・評価の再設計
AI時代に必要な再設計として、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは業務プロセスの効率化だろう。金子氏が強調するのはその先にある、意思決定、マネジメント、職務権限、そしてキャリアの再設計だ。
「AIを使えば、必要な情報は10分ほどで揃う。ところが、たとえば承認まで3週間かかってしまう。AIが意思決定を迅速にサポートしてくれても、意思決定のスピードも実行のスピードも上がらない」(金子氏)
西澤氏は、まさにこれを実践している。職務権限規程をExcelにすべて洗い出し、どの承認が必要でどれが不要か、承認経路と協議先をゼロベースで設計し直した。「早く決めたい、でも安全・安心は保ちたい。必要な部門には確実に回したい。その条件で最適なルートを一から考えるのは、AIではなく人の仕事だ」と西澤氏は語る。
こうした見直しによって、承認者を必要以上に増やす、いわば「スタンプラリー」のような意思決定プロセスを避けることもできるという。生産性の変化も大きく、以前なら2週間と見積もった仕事が、ものによっては数時間で終わるようになった。
評価制度もまた、再設計の対象となる。過去100件の契約書を見比べて20時間かけていた作業を、AIは数分でこなす。それにもかかわらず、メンバーを「1ヵ月に契約書を何件見たか」で評価し続けるのは「まったくのナンセンス」だと金子氏は断じる。
これに対し西澤氏は、KPI(重要業績評価指標)の前にKGI(重要目標達成指標)から設定し直す必要があると応じた。「何件処理した」「何時間削減した」という指標は見栄えがよく、わかりやすい。だが本質ではない。新しいビジネススキームの構築段階から関われた回数や、営業から「あなたに頼みたい」と指名された回数といった新たなKPIが生まれつつあるという。
会議室の空気はAIには読めない。データ化されない領域に宿る人の価値
では、AI時代に人に残る価値とは何か。よく挙げられる「創造性」について、金子氏は「言葉がきれいすぎる。本当はもっと重いものではないか」と問題を提起する。AIは、デジタル化・データ化された情報であれば即座に提示できる。裏を返せば、データ化されていない領域にこそ、人が向き合う価値があるというわけだ。
「取締役会や経営会議に案件を持ち込んで、会議室のドアを開けた瞬間に『今日はこれ、通らないな』と感じることは多々ある。それをAIがわかるかといえば、絶対にわからない。ここをくみ取れるのは人間だけ」(金子氏)
意思決定は、会議の外で下されることもある。会議後のエレベーターで意思決定者に感触を確かめると、既に方向性が固まってることもある。ガバナンス上、正式な決定は会議体で行われるが、実質的な判断は会議体の外の瞬間にあったりするのだ。こうした隙間の情報はデータ化されないため、AIには読み取れない。西澤氏も「相手の顔を見て、場面を見て需要を捉える。そこはやはり人」と同意する。金子氏の言葉を借りれば、「人かAIか」ではなく、「人とAI」なのである。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-




