「やりたくない」から始めるゼロベース設計/ゴールから逆算するAX
AX(AIトランスフォーメーション)に乗り出す企業は多いが、うまくいっていないとの声も少なくない。その原因について西澤氏は、既存の業務フローを前提にAIを「当てはめる」発想が部分最適を招くと指摘する。
「今の仕事も業務も部門もない状態で、AIを完全に使える会社を一から作るとしたら、同じ仕事、同じチームを作るだろうか。作らないと思う。ゼロベースで描いた姿が目的地になれば、現在地とのギャップが見えてくる」(西澤氏)
一方、金子氏は「最近は『やりたくない』から考える」と明かす。たとえば稟議の目的は、意思決定の証跡を残すことのはずだ。ならば、稟議という形式でなければならないのか。仕事の原点に立ち返れば、目的への最短ルートが見えてくる。そうなると改革は法務部門にとどまらず、会社全体の決裁制度の見直しにまで広がっていく。
金子氏はこれを富士山登山にたとえる。富士山に登ると決めるのが経営、車で行くかバスで行くか、何合目から登るかといったルートを選ぶのが執行、装備や休憩地点を決めるのがマネージャーの役割だ。目指す頂、すなわちゴールさえぶれなければ、たどり着き方は変えてよいのである。
意味付けがチームを自走させる。ナレッジからジャッジへ
「仕事がAIに奪われる」という不安を抱えるメンバーとどう向き合うか。両氏に共通するのは、仕事の「意味付け」の徹底である。金子氏は契約書レビューを例に挙げる。一般にはビジネス紛争を未然に防ぐ予防としての法務の仕事だが、その先にあるのは経営の意思決定のサポートだ。リスクを契約で軽減するからこそ、経営は「思い切ってやれ」と言える。業務の意味をそう書き換えることこそが、マネジメントの再設計だという。金子氏は1on1でも業務の進捗確認をやめ、「意思決定を支えるために、どうしたらいいと思う?」とメンバーにアイデアを求めるようにしている。
ちなみに西澤氏は、「モチベーション管理がマネジメントの仕事だとよく言われるが、自分は一切しない」という。その代わり、仕事の意味と重要性、経験することでどんな実力が身につくのかを丁寧に伝えている。
すると、意味付けを理解した組織は自走し始める。やり方を教えなくても、メンバーが「こうしようと思いますが、いいですか」と聞きに来るようになるのだ。西澤氏はこれを「思考プロセスのインストール」と呼ぶ。
そして金子氏は、最後のゴールは「皆さんが経営者になること」とメッセージを示し、セッションは締めくくられた。
「偉くなる、社長になるという意味ではない。仕事をデザインしていくと、やることはすべて意思決定になる。優先順位を決め、やらないことを決め、経営資源を再配分する。AIはそれを強く支えてくれるはず。情報の非対称性が減っていくなかで、意思決定に意識を振り向けていくことが、私たちの最後のゴールではないか」(金子氏)
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