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日立・西村あさひが問う法務の真価──AIが“無難な正解”を出す時代、求められる「センスと責任」とは

大久保 遥(Biz/Zine編集部) [著]

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AIの「凡庸さ」に抗う──教科書的な正論を超え、泥臭くディールを生む力

 AIには代替できない「センス」や「コンテキストの理解」は、グローバルビジネスの現場でより顕著に求められる。中山氏は、東南アジアをはじめとする海外拠点において、日本人がなぜ重宝されるのかという実例を挙げた。

西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 執行パートナー 中山龍太郎氏
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 執行パートナー 中山龍太郎氏

「一見すると契約を守らない相手が不誠実に映ったとしても、現地の文化やルールとの違いに起因することも。単に切り捨てるのではなく、どこで折り合えるかを見つける力。これこそが、究極的な法律家の力だと思います」(中山氏)

 抽象的な法的正論を押し付けるのではなく、目の前のギリギリの状況の中でビジネスを前に進める道を模索する泥臭いセンスこそが、AI時代に不可欠になるという。

 松村氏もこの見解に賛同し、代替されない価値の根源は「価値観」そのものにあると説く。普遍的な正しさなど定義できない現代において、「これとこれならこちらを優先する」という個人の価値観や正義感が重要になる。相手の事情を深く理解し、異なる価値観の中にあっても共通点を見つけ出してディールを生み出す過程にこそ、人間の真価が発揮されるのだ。

 こうした人間ならではの価値観の重要性を裏付けるように、中山氏は再び楠木氏の言葉を引用し、「AIは全力で凡庸になろうとしている」と指摘した。

 膨大なデータを学習し、万人にとって受け入れやすい最適解を提示するAIは、必然的に凡庸な答えに行き着くという。法務においても、法令遵守のためのイージーな答えはAIが集約していくが、最後に「法的に意味がなくても、自社にとってこれが大事なのだ」と意思決定する力を研ぎ澄まさなければならないという。AIの提示する凡庸な解に甘んじることなく、人間が自ら考えるべき領域を戦略的に死守していく姿勢が必要だと強調した。

誰が責任を負うのか──法務が単なる“下請け”にならないための境界線

 AIが凡庸な解を出し、人間が独自の価値観に基づく意思決定を下す。この両者を分ける決定的な境界線として、松村氏は「責任」の所在を挙げた。

株式会社日立製作所 代表執行役 執行役常務 CLO 兼 グループゼネラルカウンセル 兼 法務統括本部長 松村祐土氏
株式会社日立製作所 代表執行役 執行役常務 CLO 兼 グループゼネラルカウンセル 兼 法務統括本部長 松村祐土氏

「自分の価値観で判断し、平均的な最適解から逸脱した価値を提供した際、その結果に対する責任は決して機械には取れません。最終的に人間が責任を負うことこそが、自らの正しさを貫く対価であり、AIと人間の本質的な違いです」(松村氏)

 松村氏は、あるスポーツの日本代表監督が緻密なデータ分析をあえて退け、自らの直感に従って布陣を決断したエピソードを紹介。「違和感を無視して機械の言う通りにしていたら後悔しただろう。なぜなら責任を取るのは自分だからだ」と続けた言葉に、人間が果たすべき真の役割が示されている。

 一方で、中山氏は法務組織の未来に対する強い懸念を指摘した。

「もし法務部が、事業部がAIを使って作成した契約書を単に確認し、法務部確認済みという判をおすだけの部署になれば、価値創造の源泉からどんどん遠ざかっていきます。外部の法律事務所も、AIの最終確認だけを請け負うようになれば存在意義がなくなります」(中山氏)

 AI時代において、法務は単なる責任の引き受け役にとどまらず、自ら責任を持って進むべき道を切り拓いていかなければならないと中山氏は強調した。

 では、2030年の法務はどのような姿になっているのか。

 松村氏のビジョンは明確だ。代替可能な定型業務やデータ分析などの補助的なプロセスはAIが担い、法務機能は「最後はそれが良いかどうかのジャッジメントをする人間のハブ機能に収斂していく」と予測する。しかし、それは法務の役割が縮小することを意味しない。むしろ、法務のスキルを活用しながら、全社の事業におけるより広範で重大なジャッジメントに対して価値を提供していくことが求められるのだ。

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企業倫理をエンジンに、法務はブレーキ役から事業の駆動力へ

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大久保 遥(Biz/Zine編集部)(オオクボ ハルカ)

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