企業のポジショニングを検討するために役立つコンセプト
価値の創造と充当
まず、企業のポジショニングについて考えるために、「価値」とは何か?を整理しておこう。
「価値創出」には、コスト、価格、WTPが関わる。WTPは、製品・サービスが生み出す幸福や有用性を貨幣価値に換算したものだ。たとえば、32セント分の幸福を生み出す製品を作るコストを20セントとしてみる。20セントの費用をかけて32セントの幸福を作ることで、生み出された「価値」は12セントとなる。問題はこの12セントの分配である。
「業界」というのは、サプライヤー、企業、流通業者、顧客などの様々なプレーヤーが集まって、インプットをアウトプットに変化させ、価値を生み出しているところである。価値を生み出したら、その後、各プレーヤーはパイ(生み出された価値)の一番大きな一切れを取ろうとする。
「産業分析」では、これらの異なるプレーヤーたちが共に作り出した価値をどう配分するかを調べる。プレーヤーのうち、バイヤーは価格を下げようとするし、サプライヤーはコストを上げてもらいたいと思う。価格圧力は、競合他社、代替者によってもかけられる。代替者は予想外の方向から現れる場合が多い。
代替者の存在を意識する-電気ドリルの競合はネクタイ?
電気ドリルを例に考えてみよう。電気ドリルの代替品としては、手動ドリル、便利屋さんなどがすぐに思い浮かぶかもしれないが、ネクタイはどうだろうか。電気ドリルが一番売れる理由が父親へのプレゼントとしてであって、穴を開けるという用事のためではないとすれば、電気ドリルの代替品としてネクタイが浮上してくる。
たいてい、企業は他社製品よりも少しでも改良し、同業の競争相手から1%のシェア奪うにはどうしらたいいかといったことに夢中だ。新たに見つけた競争者は脅威でもあるが、穴開け道具よりもずっと大きなギフトが市場だと分かれば、新たな成長の可能性が開ける。狭い市場内で1%のシェアを争うより、マーケットそのものを拡大できるかもしれないのだ。
補完者の存在も重要-性能の優劣ではない勝てる理由
補完者とは、顧客が自社製品と合わせてその企業の製品を消費することによって、自社の製品をより高く評価してくれるという関係にある企業を指す。
たとえば、DVDプレーヤー市場では、HD DVDとブルーレイという2種類の規格が技術上の問題で競争していた。しかし、最終的にブルーレイが規格として残ったのは、技術仕様が優れていたからではなく、見られる映画の本数が多かったためである。ブルーレイとライセンス契約をした映画会社のほうが多かったので、HD DVDは撤退を余儀なくされた。
このように補完者で勝負が決まってしまう場合もある。補完者は、自社を囲むエコシステムの一部をなしている。補完者としての役割を自覚している補完者も一定の価値割り当てを要求してくるので、補完者との関係は、その重要性を理解しつつうまく管理することが重要だ。