より果敢な挑戦を行うための、プロジェクトの時代
狂ったアイデアのスタートアップは、会社ではなくプロジェクトから始める
以上で書いてきたように、そうした領域でもスタートアップでしかできないイノベーションは残されているというのが個人的な結論です。だから仮に上述の「スタートアップの時代が終わった」という言説が本当でも、ただしそれはこれまでの延長線上の「Webやモバイル中心のスタートアップの時代が終わった」というだけだと思います。実際にThe Informationの記事はそうした論調です。
ただその一方で、スタートアップはこれまで以上に狂ったアイデアか、もしくはこれまで以上に困難なハードテックなどの別の領域に行くことを求められることになるのではないかと思います。
そしてそうした狂ったアイデアやハードテックの領域のスタートアップを行うためには、スタートアップを「会社として」始める前に「プロジェクト」を始めることだと思っています。ではなぜ会社ではなくプロジェクトなのでしょうか。それは会社化にデメリットがあるからです。
会社化してしまうデメリットは、
- 真面目にビジネスをしようとし、結果を出そうと急ぎすぎてしまう結果、狂ったアイデアを実践できなくなる
- ミートアップへの参加や法律相談などをしてしまい、プロダクト開発に集中できなくなる
- 会社の体を保とうとして人を雇ったりしてバーンレートが高くなる
- 簡単に潰せなくなる(投資を受けるとなおさらで、会社の体を残すためにプロダクトではなく受託だけで食いつなごうとしてしまう)
などがあります。
逆に極力プロジェクトであり続けるメリットは
- 必要以上に真面目にならない(狂ったアイデアを続けられる)
- ある程度好きなことを実践できる
- バーンレートを低く抑えることができる
- 短期で失敗して方向転換することができる
- プロダクトが成功してから会社化すればいい
などがあります。Y CombinatorのPresidentであるSam Altmanも同様のことを言っているので是非一読してみてください。
Projects and Companies
The best companies start out with ideas that don’t sound very good. They start out as projects, and in fact sometimes they sound so inconsequential the founders wouldn’t let themselves work on them if they had to defend them as a company.
プロジェクト支援の動きが活発に
USの多くの企業や学校ではこうした小規模なプロジェクトを進めるような動きがあります。たとえばAdobeのKickboxやGoogleの20%ルールなどで各個人のプロジェクトを進めていたりしますし、ハーバードには、学生に約50万円を渡して起業させるようなFieldと呼ばれている授業や、NYUには50チームを採択し約50万円を渡してプロジェクトを進めさせ、その中で一部のチームだけ次のファンディング(約200万円)を行うような仕掛けが始まりつつあります。
そして幸い、そうしたプロジェクトに対してテーマ別の助成金やコンテストを提供する環境も整いつつあります。大きなところだとDARPAやX-Prizeでの大きな挑戦、そして国が用意したコンテストだけではなく、学校別のコンテストや助成金なども増えてきています。たとえばMITだけでも「クリーンエネルギー」「グローバルチャレンジ」など、テーマ別のプライズがあるほどです。
■Ecosystem - Competitions and Programs
またエンジェル投資家も大きな社会的インパクトのあるアイデアに対して投資をしはじめていますし、Kickstarterなどを使った新たな資金獲得方法も軌道に乗りつつあります。
このようにプロジェクトへの資金調達環境が良くなるのと平行して、多くのプロジェクトは少額でも実施できるようになってきています。
WebサービスであればPC一台とクラウド環境があれば最小限の出費でプロジェクトを開始できます。TechShopを使えばハードウェアのスタートアップは遥かに安く上がり、BioCuriousなどを使えばバイオのスタートアップも以前に比べて安く始めることができます。
プロダクトを作るという一点においては、今や会社としての形態が必要ないぐらい、チープにプロダクトを作る環境が整いつつあり、形態としてはプロジェクトでも十分に進めることができる状況です。