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英国伝統のナニー派遣で「子育て・教育・ケア」の社会課題に応えるポピンズ

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 保育所に入れない待機児童の多さが社会問題になる一方、働く女性の緊急の時の子供の面倒を見る仕組みや、より質の高い教育や子育てといったニーズもある。そうしたニーズに応えるものとして、ベビーシッターや「ナニー」といった「在宅保育」に期待が集まっている。その先駆者として、急速に事業を拡大しつつあるのが「株式会社ポピンズ」だ。利用者の満足度は9割以上という高いサービス品質を誇る同社の成長を支える仕組みについて話をうかがった。

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「働くママ」の実感からスタート、高品質な教育とケアを提供

「ベビーシッターサービスは当社のDNA」、開口一番に株式会社ポピンズの井上正明氏はそう語る。自宅でのナニーサービスをはじめ、保育所運営・訪問介護などの事業を展開し、女性の社会進出・少子高齢化といった社会情勢から生じる多彩なニーズに応えてきた同社だが、起点は創業者であり代表取締役CEOを務める中村紀子氏の「働くママ」の実感だ。元テレビ朝日アナウンサーとしての「子育てと仕事の両立」という個人的な経験に加え、社会的な支援の必要性を実感したことから、1987年に起業を決意。以降、一人ひとりの要望に対するきめ細やかな対応で、多くの働くママの支持を獲得してきた。

「当社の保育サービスの品質特性を1つ上げるとしたら『教育』が該当するでしょう。高品質な『エデュケア』を、一人ひとりの顔を見ながら提供する。その理想イメージは、社名の由来でもある「メアリー・ポピンズ」、魔法が使えるナニー(ベビーシッター兼家庭教師)です。設立当時「ナニー」という呼称が一般的でなかったことから、同社では教育ベビーシッターとしてサービスを提供しています」(井上氏)

株式会社ポピンズ 常務執行役員 経営企画本部長 企画営業本部長 井上正明氏

現在、教育ベビーシッターの登録者数は3000名以上。年々希望者が増加する中でも、その3/4が不採用という厳しい規準で選ばれた精鋭だという。また、選抜スタッフや保育園責任者などをイギリスのナニー養成校「ノーランドカレッジ」に1年間留学させ、知見を社内に持ち帰らせるとともに、同校講師を招いての日本での研修も開催している。

チャイルドサービス事業のマネジメントをおこなう菅原氏はこう語る。

「やはり家庭内でのサービスということで、お客様からの信頼を第一にしています。厳しい選定をパスしてからも3ヶ月間は仮採用となり、幼児の救命救急などの基礎研修や直営の保育所での実習を行います。中でも重視しているのが、人となり、マナーやコミュニケーションでしょうか。それぞれのご家庭で育児や教育への方針が異なるので、保護者様との擦り合わせや情報交換を密に行う必要がありますから」(菅原氏)

株式会社ポピンズ チャイルドケアサービス部 マネージャー 菅原櫻子氏

 本契約となった後も、1年ごとに研修とテストを受けて契約更新を行い、定期的な勉強会で最新の育児情報や、インフルエンザなどの季節ごとの注意点などを共有するという。そして、さらに高いスキルと知識を備えたスタッフ約100名を「スーパーナニー」と位置づけ、キャリアアップの指針としている。まさにベビーシッターのエリート集団といった印象だが、スタッフの働き方に対する要望は多様化しており、管理する側にも柔軟性が求められるという。また、やはり密接に人と関わる仕事だけに、子どもや保護者との「相性」が重視され、「マッチング」の精度も大きな課題だ。

スタッフとユーザーのマッチングの精度が重要

「創業直後は、紙と電話による管理とマッチングがすべて。そこからスタッフ管理および顧客情報については少しずつデジタル化、IT化を進めてきました。2015年に導入した新システムの目的は、大量のデータを安全に管理しながら、人の手では難しい細やかなマッチングを短時間で行うこと。最終的には人が責任を持ってオファーを受けますが、属人化やミスを減らすために、できるだけデータを触らずに精度の高いマッチングが自動的にできることを期待しました」(井上氏)

ポピンズが管理する情報は、ナニー側とユーザ側の双方であり、特にユーザについてはシッター業務に不可欠なセンシティブな個人情報も多い。たとえば、ナニー側なら当人の経歴や資格、得意分野にはじまり、ユーザからの評価や研修内容なども含まれる。ユーザ側も育児方針のほか、アレルギー情報などの生命に関わる情報も多く、いずれも十分に管理し、必要に応じて適切に伝達される必要がある。

「新システムでは、取り扱うデータについてはかなり細かく指定しました。たとえば、ナニー側の既往歴に『水疱瘡』があれば、水疱瘡にかかられたお子様の経験のあるシッターとして派遣できますし、子育てで小学受験を経験していることを希望されるご利用者様もいらっしゃいます。しかし、この先どのようなデータが必要になるのか分からないので、柔軟性・拡張性を持つようにしてもらいました」(菅原氏)

データの種類や量に加え、マッチングの精度を上げること。そして、そのスピードを可能な限り上げること。しかし、追加や変更にフレキシブルに対応しうること。それがポピンズの新たな業務システムの重要要件だったという。

「以前は、データを画面で見ながらコーディネーターが電話で確認しながら、派遣者を選定していたのです。しかし、お客様のご依頼は、たとえば重要な会議の朝にお子様が急に発熱するなどの緊急性が高いものが多く、より速く的確なマッチングが求められていました。さらに24時間オーダー可能を掲げる中で、急速なお客様の増加に対応の量的な限界が目の前に迫っていたことも大きいです」(井上氏)

念頭にあるのは、2020年のオリンピックイヤー。ポピンズが法人サービスを飛躍的に拡大したのは、1990年に開催された「国際花と緑の博覧会」だという。

「国際博では初の試みとしてイベント託児を担当したのですが、その需要が今後また高まると考えています。オリンピックとなれば、世界中から人が集まり、より多様なニーズが発生するでしょう。その1つ1つに対して、真摯に取り組んでいこうとしています。たとえば、言語や生活習慣などのナニーサービス側の要件はもちろんですが、システムとしてもいつ誰にご依頼いただいても、安心できる保育サービスを提供したいと考えています」(井上氏)

クラウド型Webデータベースで段階的にシステム移行

M-SOLUTIONS株式会社 取締役 植草学氏

こうした様々な要件を満たしながら、要望をすぐに反映できること。そのニーズに対して、SIパートナーであるM-SOLUTIONS株式会社はサイボウズのクラウド型データベース『kintone』を提案し、業務フローの見直しの段階から参加したという。その構築の様子を同社取締役の植草学氏は次のように振り返る。

「1〜2ヶ月間隔で完成した部分をレイアウトまで作成してお見せするという方法でスピーディに進めて参りました。設計書だとイメージが食い違う可能性がありますが、画面まで見ながら調整できるので、想像以上に手戻りが少なかったですね。むしろ、新しい要求にもすぐに対応できて、喜んでいただけました」(植草氏)

たとえば、Web上で「子どもを預ける」サービスを申し込むのは、まだ不安という人は少なくない。安全・安心を印象づけるためにも視覚的な「信頼性」と「温かみ」が大切な要素になる。しかし“仕様”として明文化されていても、当事者が実際見なければわからないニュアンスも大きい。また、マッチングについても、精度とスピードを上げるためのロジックをどう組み合わせればいいのか、調整する必要がある。そうした場にポピンズ側も実際の担当者が直接関与し、使い勝手や効果にこだわったという。

「たとえば、ある条件で3000人を一気に検索すればいいのか、属性グループごとに探せばいいのか、実際に触ってみなければ、アルゴリズムの善し悪しが実感できないでしょう。ユーザ画面についても、ポピンズのお客様は世帯収入も高く、良質なサービスを受けなれている方がほとんど。そうした方に満足いただけるシステムにするためには、お客様へのメール文1つとっても十分なブラッシュアップが不可欠です。そこは、量質ともにかなりタフなやりとりをさせていただきました」(菅原氏)

既存の仕組みから、段階的に新しいシステムへ。そこに様々なアイディアや改善を反映し、よりよいものにしていった。そしてこのシステムのおかげで、業界的には皆無に等しかった24時間対応が可能になり、それがポピンズの大きな強みとなったという。

ベビーシッターから保育所事業へ連携するシステム

「kintone」を活用して構築した、登録者・利用者管理およびマッチングシステムは、こうして安全・安心を担保しながら精度とスピードを高め、今もなおまた更なるバージョンアップを模索し続けているという。また、M-SOLUTIONS株式会社のアイデアで、プロジェクトの進捗管理・議事録共有なども行っており、社内業務システムの効率化にも一役買うこととなった。そこで得られたノウハウや知識はポピンズの他の事業にも展開されつつあるという。

「2013年の『待機児童解消解消プラン』の策定後、保育所の数は毎年増え続けていて、当社も積極的に展開しています。しかし、やはり保育士の確保と同時に業務負担の軽減が課題となっており、特に日誌や保育計画、自治体への提出書類などの事務作業の効率化が必要です。機械化しにくい部分ですが、新たなシステム基盤上で負担を減らす取り組みができないか取組中です」(井上氏)

また、ベビーシッター事業と保育所のデータ共有化など、サービスを跨いだシステム連携も課題の1つだ。さらに、保育・育児を取り巻く規制が緩和されたことにより、企業主導型保育施設や認可外保育所へのコンサルテーション、地方における保育園と幼稚園の統合のアドバイスなど、ポピンズのノウハウが最大限に活かされるビジネスチャンスが広がりつつある。

「少子高齢者による労働者不足を解消し、日本経済市場を支えていくためには、よりいっそうの女性の社会活動参加が欠かせません。しかし、まだまだ日本では家庭内の労働力として見なされ、保育や介護は女性の仕事と考えられがち。そこについて、ポピンズがエキスパートとしてサポートにあたり、女性が安心して働ける社会環境の実現に貢献できればと考えています」(井上氏)

男女問わず人生において「働くこと」は重要な柱の1つであることは間違いない。その継続において、大切な育児や介護といったライフイベントを足かせではなく豊かな経験とするために、こうしたサポートサービスの活用は有効といえるだろう。人の一生に寄り添うサービスを目指して、ポピンズの挑戦は続いていく。

<お話を伺った方>(左から)株式会社ポピンズ チャイルドケアサービス部 マネージャー 菅原櫻子氏/株式会社ポピンズ 常務執行役員 経営企画本部長 企画営業本部長 井上正明氏/M-SOLUTIONS株式会社 取締役 植草学氏/M-SOLUTIONS株式会社 システムサービス本部 クラウドソリューション2部 部長 岡田哲広氏

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伊藤 真美(イトウ マミ)

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