イノベーションの芽に“除草剤”が撒かれてしまう組織のあり方を示す、バーゲルマンの研究
アイデアの発生源とそれを評価する側をつなぐ「相棒」がいないとイノベーションの芽は淘汰されてしまうというのが、ここまでの話だ。
オープンイノベーションが提唱された背景として、さらに「組織の外側でアイデアがイノベーションへと育つ環境ができてきた」ことがある。特にアメリカなどではベンチャーキャピタルが機能し、階層型組織の中で面倒な翻訳のプロセスを経るよりも組織を飛び出してしまった方が早いという状況になっている。
そして、アイデアは組織の淘汰環境からすり抜け、組織の外側でコラボレーションが起き、イノベーションが生み出されている。これがオープンイノベーションのもともとの議論で、つまりそれは「コラボレーションの問題」として捉えるべきだというのが、宇田川氏の主張だ。
宇田川氏はイノベーションの芽に除草剤が撒かれてしまう組織のあり方を示すものとして、バーゲルマンの研究を説明した。
バーゲルマンが長年にわたってリサーチを続けたインテルは、アンディ・グローブCEOの時代にDRAMメーカーからCPUメーカーへの大きな戦略転換を成功させている。しかも、それはトップの発案ではなく、ボトムアップによるものだった。それが起きたプロセスを説明するのが、次の「バーゲルマン・モデル」だ。
この図は左から順に、組織の現場、ミドル、トップのレベルを示している。左上に “e”、右側に“E”とあるが、これはそれぞれ現場サイドが気づいているが、まだ組織として公式に捉えてはいない環境(environment)と、組織が公的に戦略の対象としている環境(Environment)を示す。現場は自分たちで気づいたことをベースに「自律的戦略行動」を取り、それを公式化するべくミドル層に上げる。するとミドルは会社のコンテクストの中に組み込めるか、組み込めない場合は新しいものとして説得できるか考え、うまくいきそうならトップに上げる。そしてトップもその話に納得すれば、全社戦略がガラリと変わる。このようなプロセスを通じて、インテルは「CPUに特化する」という戦略をとることとなった。