『イノベーションのジレンマ』の源流となる、バーゲルマンを再考する──なぜ戦略的に成功した企業が硬直化していくのか?
1980年代は、日本的経営が世界的なブームとなり、多くの日本的経営に倣った実践を開発すべきだと経営学領域でも研究が展開された。例えば、ゲイリー・ハメルとC.K.プラハラードが展開した「コア・コンピタンス論」は、日本の企業のように組織の壁を超えて協働する経営実践をアメリカ企業でも行うべきだと説いていたし、トーマス・J・ピーターズとロバート・ウォーターマンの『エクセレント・カンパニー』なども、日本企業のように一体感を持った組織の文化がアメリカ企業にもあるのだ、ということを議論したものであった。
しかし、これらが今からすると“おとぎ話”のように聞こえてしまうのは残念なことだ。80年代当時、優れた企業でアメリカ企業のロールモデルであった多くの日本企業が、なぜ今、その姿に80年代当時とのギャップを感じてしまう状況に陥ってしまっているのだろうか。この点についても、実は経営学で研究が行われてきた。
1990年代終わりから2000年代以降、経営戦略論の中心的テーマのひとつは、成功した企業がなぜ衰退するのかであった。この議論を紐解いていくと、組織内での共創が困難である論理が見えてくる議論がある。それはロバート・バーゲルマンという経営戦略論研究の大家の「共進化ロックイン(co-evolutionary lock-in)」に関する議論である。
クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ(innovator’s dilemma)』は、極めて有名なコンセプトで多くの方が知るものであろう。最近では、ゼロワンブースターの鈴木さんと合田さんがBiz/Zineにコラムとして執筆しているのを読んだ方も多いはずだ。このクリステンセンの議論は、元々、バーゲルマンの理論とジェフリー・フェッファー&ジェラルド・サランシックの理論の2つを元にしてできたものだ。つまり、バーゲルマンの議論がわかると、クリステンセンの理解もより深まるのである。
バーゲルマンは長らくインテルをリサーチしてきた。これらの研究の成果は、『戦略は運命である(Strategy is Destiney: 邦訳は『インテルの戦略』)』にまとめられている。ここでは、元々DRAMを中心に製造してきた半導体メーカーのインテルが、なぜコンピュータ用CPU市場へと戦略転換をしていったのか、そこで大成功を収めたのか、そして、なぜインテルはその後、コンピュータ用CPUメーカーから脱却できず、既存戦略の慣性力(strategic inertia)に苦しむことになったのかが、長期にわたるリサーチから考察されている。そこから明らかになった、成功した企業が失敗していく論理を少し紹介しながら、しかし、単に失敗の論理を知るだけではなく、その先に何を見据えるべきか、考えていきたい。