わかりづらい「ネットワーク科学」で押さえておくべき三大体系
入山(早稲田大学ビジネススクール准教授):
前編では、ネットワーク科学の面白さをトピックス的にいろいろとお伺いできたと思うのですが、ここでもう少しネットワークの基礎的な理論について解説いただけないでしょうか。
佐山(ニューヨーク州立大学ビンガムトン校 教授):
“簡単に”ですね。それが一番難しいのですが(笑)、承知しました。まず「ランダムネットワーク」という基礎的なモデルの枠組みがあります。この考えでは、1つ1つのつながりはあくまでランダムに生じます。この考え方が生まれたのは1950〜60年くらいで、数学者のポール・エルデシュとアルフレード・レーニィらによるランダムグラフモデルがそのはしりですね。当時は、大規模なネットワークは全てランダムに成り立っていると考えられてきました。
入山:
なるほど。例えば人と人のつながりに人為的な「恣意性」はなく、ランダムに、偶然に出会う、という前提でモデルが作られていたわけですね。
佐山:
その後、よく聞く「六次の隔たり」に象徴される「スモールワールド・ネットワーク」がダンカン・ワッツとスティーブン・ストロガッツにより1998年に提唱されるようになります。
入山:
これは私もよく知っていますが、「世界中のありとあらゆる人は、実は6人程度を介せば全員がつながっている」という有名な事象のことですね。
佐山:
はい。六次の隔たり自体はランダムネットワークでも説明できますが、スモールワールドで特徴的なのは「友達の友達も友達である確率が高い」ということで、その3人の友達同士が繋がって、“小さな三角形”がたくさんできてくることです。密なローカルネットワークをつくっているわけですね。しかも同時に、ネットワークの中では誰と誰の間でもつながりの距離が非常に短い。その意味ではグローバルで、ローカルとグローバルが共存していることになります。
ただ、理論上、スモールワールド・ネットワークの中にはつながりの強さに関する偏りは見られないはずです。しかし、実際の社会を見るとずば抜けて知り合いが多い人がいるのも事実なのです。ちょうどその頃、WWWなどの大量のネットワークデータの解析が進んだことで、つながりが集中する「ハブ」の存在が提唱されます。それが日本では『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』でも有名な、アルバート・ラズロ・バラバシの「スケールフリー・ネットワーク」です。
入山:
とてもわかりやすいですね。すなわち、初期の「ランダムなつながり」、1990年台後半からの「スモールワールド」、そして現代の「スケールフリー」がネットワークモデルの一番基本的な三大体系、というわけですね。