なぜ名経営者は“全体をそのまま”受け入れて、「主観的なヒラメキ」で発言するのか?

特別鼎談:佐山弘樹氏×入山章栄氏×佐宗邦威氏 後編

 入山章栄氏と佐宗邦威氏がイノベーションとクリエイティビティを包括的にとらえようとする本連載。連載も回を重ねていくうちに、入山氏、佐宗氏とも、多くの今時代の最先端を行く対談者が語る共通の根底に、「ネットワーク」があることに気づいた。そこで今回は、米国でネットワーク科学・複雑系分野のトップ研究者として活躍する、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の佐山弘樹教授を迎え、ネットワーク科学の最先端から、他分野への応用までをうかがった。佐山氏はコンピュータサイエンスをバックグラウンドに多種多様な「ネットワーク・サイエンス」「複雑系」の研究を行っており、意思決定やチームダイナミクス、組織行動論など、ビジネス分野への実践的な応用研究にも取り組んでいる。前編中編に続く後編では、本連載の目的の1つである「イノベーション」と「複雑系ネットワーク理論研究」との関係性について伺った。また、米国でのネットワーク研究の背景や、研究で本質を捉えることの難しさ・面白さなど、興味深いトピックスを盛り込んでお届けする。

[公開日]

[語り手] 佐山 弘樹 入山 章栄 佐宗 邦威 [画] 清水 淳子 [取材・構成] 伊藤 真美 [写] 長谷川 梓 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] ハブ人材 バイアス 事業開発 テクノロジー センスメイキング 可視化 ネットワークサイエンス 複雑系 パーコレーション理論 自己組織化 フレーミング

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複雑系研究のたどり着く先にある、「自己組織化的臨界点」と「自動調整」

入山(早稲田大学ビジネススクール准教授):
 米国では政府や軍も、様々なネットワークの基礎研究に力を入れていますよね。私たちもイノベーションとクリエイティブを追っているうちに、ネットワークの重要性に気づき、より深掘りして見るようになっています。こうしたネットワークへの興味関心の高まりは、何が原因と思われますか?

佐山(ニューヨーク州立大学ビンガムトン校 教授):
 流行もあると思いますが、ネットワークが「操作されるべきチャンネル」として存在し始めたということだと思います。米国大統領選もそうだったように、ネットワークメディアの情報操作が経済や政治すらも動かす大きな影響力を持つようになりました。かつてのソーシャルメディアなどが無い時代と較べて、その登場で一気にネットワークの重要性が高まり、私たちも既に操作の影響をうけています。若年層であるミレニアル世代はバーチャルに活動の場を移しつつあり、もはやリアルとの境目を感じられません。

入山:
 私と佐山さんとも、ここ数年バーチャルでしか会っていませんでしたからね(笑)。しかもそれでいて、リアルと同じほぼ密度でコミュニケーションしてきた実感すらあります。そうしたネットワークがもはや無視できないほど影響力を持ち始めたということなのでしょうね。

佐宗(biotope 代表取締役社長):
 妄想レベルの話で恐縮ですが、大学時代によくわからないまでもワクワクしながら読んでいたM.ミッチェル ワールドロップの『複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』に書かれていたことが、今になって続々と現実のものになっているような気がするんです。リーマンショックとか、予想を覆す選挙結果とか、雪崩のように想定外のことが頻発しているのと、ネットワーク研究の「読めない極端な結果」がどこか通じているんじゃないかと。

佐山:
 それはあるかもしれません。先ほど(中編記事参照)申し上げた「パーコレーション」にも“臨界”があるんです。興味深いのは、ある種の複雑系では、勝手に臨界で止まるんですよね。「自己組織的臨界状態」と呼ばれるもので、多数の要素の間に相互関係があって、それぞれが影響して絶妙な“いい感じ”のところに落ち着く。あまり良い例ではないかもしれませんが、よく言われるのが「地震」で、頻度と規模の分布をみてみると、両者の間に統計的にはありえないような非常に特殊な関係があるのがわかります。勝手に調整がかかっているんですね。

入山:
 もう、地球全体そんな感じがしますよね。海流が、気流がとそれぞれが共鳴し合って、“いい感じのところ”に落ち着いている。まさに「奇跡の地球」みたいな(笑)。

佐山:
 ええ、それは社会的な現象にも同様のことが起きていて、たとえばバイラルマーケティングや感染症の伝搬などでも、人々がつながりをダイナミックに変更することで、広がるか広がらないかの絶妙なところへ社会ネットワークが自動的に進化している現象が指摘されていますし、脳も細胞の間の接続の度合いによって癲癇(てんかん)から意識不明までいろいろ起こりますが、こうして私たちがロジカルにモノを考えられるのは接続度合いが“いい感じのところ”に「自動調整」されているからではないか、という説もあるんです。ただ、そのメカニズムやそれが生み出す挙動は非常に複雑で、だからこそ予測や制御が難しい部分でもあるわけですよね。

佐宗:
 その予測不能なことが続いていているのは気持ち悪くて…。でも、臨界点に入っているんだと思えば、気が楽になるかな。

佐山:
 「気持ち悪い」と感じるのは、前編でもお話しした還元主義的な教育の結果でしょうね。白黒つけないと気が済まない、みたいな(笑)。

佐宗:
 うーん。白黒はっきりさせたいという教育の賜物か〜。精進が足りないですね(笑)。

佐山 弘樹佐山 弘樹 氏 / ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(ビンガムトン大学)システム科学・産業工学科教授、複雑系集団動態学研究センター長)
1999年東京大学情報科学専攻にて博士(理学)取得後、ニューイングランド複雑系研究所にて3年間学際的研究に従事。2002年から2005年まで電気通信大学人間コミュニケーション学科に在籍。2006年にビンガムトン大学に移籍。研究分野は動的ネットワーク理論、集団行動学、計算社会科学、人工生命・人工化学、進化計算、ほか複雑系科学全般。国際複雑系学会 (Complex Systems Society) 理事・運営委員。Complexity (Wiley/Hindawi) ほか各種複雑系関連学会誌編集委員。2014年よりノースイースタン大学複雑ネットワーク研究センター客員教授、2017年より早稲田大学商学学術院客員教授を兼任。

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