曖昧で朦朧としたものの美しさ、その向こう側が理解できたときの面白さ
山口周氏(コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社シニアクライアントパートナー、以下敬称略):遠山さんが最近、心を動かされたことはなんですか
遠山正道氏(株式会社スマイルズ 代表取締役社長、以下敬称略):タニノクロウという劇作家の『地獄谷温泉 無明ノ宿』と『MOTHER』という作品を観ました。面白かったので、最近スマイルズで始めた「The Chain Museum」(注1)で彼と組んであることをやろうと考えています。
もっと最近だとパリとロンドンに行きまして、妹島(和世)さんがいるSANAAが設計したルーヴル・ランスが綺麗でしたね。すごく朦朧とした感じで。外壁に周りが写り込んで風景に溶けて見えるんです。中に入るとスモークガラスみたいな壁が少しカーブしていたりして、境界が曖昧で。床も高くなったり低くなったり、ちょっと感覚をズラされるような、常に映像の中にいるような気がしました。
また、このあいだ横山大観を観に行ったんですけど、彼の描き方は「朦朧体」というんですよね。ルーヴル・ランスはモダンだけど、そういう朦朧感があるんです。
By Yokoyama Taikan - self-scanned from museum brochure, パブリック・ドメイン, Link
山口:湿度が感じられるような?
遠山:そうね。リアルな熱を感じるようなものではなくて、あくまでもモダニズムの綺麗な感じ。フワッと霧に消えていくような美しさですね。
タニノクロウの作品は真逆で、もっと熱っぽいんです。人間ぽいというか。
『MOTHER』を観たときはね、正直に言うと、出口でタニノ君と会ったときに「良かったよ」と言えずに「お疲れさま」と言って出てきたんですよ。でも、一緒に観に行った人たちとご飯を食べながら話していたら、「それって、そういう意味だったの!?」というのがどんどん出てきて。最初は全く消化不良だったのが、話しているうちに目から鱗ですよ。そのうちタニノ君本人が来て、彼の話を聞くとさらに「え、そういうことだったんだ」と全員仰け反っちゃうくらい、めちゃくちゃ面白いんです。
その体験は、作品との距離感みたいなものからくるんですよね。最初から全部書いてあったら面白くない。
山口:読めばいいという話になっちゃいますよね。
遠山:そう。それにタニノ君自身は積極的に説明するわけじゃなくて、我々が聞けば答えてくれるくらいなんです。
脚本を作るときは、演者のプロファイルをものすごく書き込んだりするらしいけど、観客はそういう背景を知る必要はない。その瞬間の美しさなり空気を感じてもらえればそれでいいと、彼は考えているんでしょう。でも、我々としては知ると面白い、というところもあって。
これから「The Chain Museum」でやろうとしていることは、その辺がひとつの切り口になってくるんじゃないかと思っているんです。