なぜMAツールを上手く活用できないのか──デジタルマーケティングプロセスにおける「3つの課題」とは
ジョブ理論は顧客がなぜその商品を購入するかの「因果」を考えるものだ。ジョブ理論では、顧客を「属性ではなく状況でセグメントせよ」という。また顧客のニーズは顕在化していないので、特定の状況においてどんなことを片付けたいのかを通して顧客を捉えることが大事だと、ジョブ理論は説明する。前述の「生け簀を作る」という発想はそのジョブ理論に通ずるものだ。
しかし、デジタルマーケティングプロセスの変革を行っている企業がみなバラ色の状態なのかというとそうではない。宮坂氏の関わるマーケティング部門の大半は、マーケティングオートメーションツール(以降、MAツール)を入れていても、うまく活用できていないという。
課題は3つあると魚住氏と宮坂氏は口をそろえる。1つめは、MAツールをデジタル設計のみに限定して活用し効果検証を行ってしまっているということだ。メールのクリック率がよくなった等の効果検証にとどまってしまっては、事業に対するインパクトは測れない。
MAツールを導入してどのくらい接客効果が上がったのか、最終的に成約効率がどのくらい上がったのかという、事業のKPI全体を見て効果検証していくべきである。
2つめの課題は、従来型の広告的発想から抜けきれておらず、データに振り回されてしまうということだ。外部データと連携して顧客の状況をつかんだのに、そのデータをターゲティングに使ってしまっているのだ。属性データとして活用し、小さなセグメントを作ってアプローチをかけても大した売り上げにはつながらないため、MAツールの効果は低くなる。メールを配信するのであればMAツールを使わずに、一斉配信をすればいいという議論になってしまう。しかも、こういった状況は長い目で見ると顧客の信用を毀損してしまう可能性もある。
3つめの課題はいわゆる「組織サイロ」、組織内の分断だ。メーカーとディーラーの情報のやりとりが円滑でなかったり、何か施策をとろうとしたときに他部門を説得できなかったりするために、効率的で円滑なオペレーションが行えず、有効な顧客体験を生み出せない。
上記の3つの課題を解決し、ジョブ理論をデジタルマーケティングに絡めた好例の一つが、冒頭のソニー損保の事例である。