「実務家の直感」を“説得力をもって語れない悔しさ”が研究の原動力に
宇田川:木内さんは極めて優秀で、わずか3年間で修士号と博士号を取得されましたが、研究の内容を一般の方にもわかるように説明していただけますか?
木内:銀行にとって自己資本とはどういう役割を果たしているのか、自己資本比率はどのような要因で決まるのか、そういう研究をしていました。
宇田川:銀行の自己資本比率は「BIS規制(バーゼル規制)」で決まっているんでしたっけ?
木内:そうです。BIS規制で国際的に活動する銀行の自己資本比率を8%以上と規定しているわけですが、8%の中には株主資本以外も含まれるので、株主資本ベースの自己資本比率はもっと低いんですね。一般の事業法人の自己資本比率は5割とか7割くらいですが、銀行の場合は10%もなくて、5%とかそんな感じなんですよ。
金融危機が起きたときは、「それでは足りないから、もっと自己資本を厚くして金融システムを盤石なものにしよう」という議論がありました。当時は「事業法人だって5割あるんだから、銀行も3割くらい必要だし、そうできる」という考え方が比較的有力で、有名な経済学者もそう言っていたんです。
宇田川:木内さんもそう考えていたんですか?
木内:いえ。我々銀行員は「自己資本を強化すればいいというものではないのでは? そもそもそんなことできないのでは?」という思いがあって。ただ、それを主張してもなかなか噛み合いません。実務家の直感としてはそうですが、うまく根拠を示すことができず、説得力がないわけです。非常に悔しい思いをしました。