「事業の生活者価値」を生み出す3つの要件──デジタル時代の成長のジレンマに陥らないために
では、事業の生活者価値を紐解いていこう。荒井氏によると、事業の生活者価値には3つの要件があるという。
1つめは、独自性があるということ。今や、業界という産業分類は意味をなさなくなり、思いもよらなかった企業が競合となることは珍しくない。マーケティングにおける3C分析が機能しない世界において、重要なのは差別化ではなく、独自性の追求なのだ。
続いて2つめの要件は、価値提供の主体になれるかどうか。ここで荒井氏は、ある不動産ポータルサイトの事例を挙げた。
価値とビジョンを同義で捉えてしまう方もいます。例えば、幸せな住まい選びを提供しますというビジョンは、事業の生活者価値ではありません。なぜなら、生活者が物件を最終的に購入するところまでの主体にはなれないからです。ポータルサイトが主体となり実現できることは、例えば、モデルルームの見学申し込みなどがあります。それが本当に事業を成長させる価値だと検証できれば、そこに投資を集中させることが必要。つまり事業の生活者価値とは、自社が主体者として関与できる事柄である必要があります。(荒井氏)
そして最後の要件は、生活者の普遍かつ潜在的欲求に応えられるかということである。生活者が多様化する中、デジタルで、顧客一人ひとりと向き合う考え方があるが、ROIが合わないという課題も挙がる。さらにコアターゲットに絞り込んで訴求を行うと、市場が小さくなるというジレンマも起きてしまう。それを防ぐ方法として、どの顧客にも共通するような普遍的な欲求を探し出すことが必要となる。そここそ、同社が長年培ってきたマス・マーケティングのノウハウが活きてくるのだろう。
KPIを業績指標から価値指標へシフトし、生活者価値を事業成長に繋げる
そして事業の生活者価値がイコールKPIであるとき、「業績指標だけでなく、業績に紐づく価値指標であることが大切」と荒井氏は主張。業績指標と価値指標の設定は、ものづくり業がサービス業へ変わっていくための重要なポイントだ。
モノを提供することを前提に事業を考えると、在庫率・客単価・市場占有率等の業績指標がKPIとなる場合が多い。これ事業側からみたKPIであって、事業の生活者価値を提供することを前提に事業を考えると、本当にその価値を提供できているかという生活者側からみたKPIになります。例えば、様々なお米ブランド毎に美味しく炊けるカスタマイズ機能が売りの炊飯器があったとすれば、標準炊飯以外の機能を使ってくれているかがKPIとなるかもしれません。もちろん収益との相関があるという前提ですが。(荒井氏)