SaaS+サブスクリプションにおける既存顧客の位置づけの変化
2019年になっても、SaaS+サブスクリプションのブームは衰えず、その市場は拡大する一方です。私はSansanのサブスクリプションビジネスを成功させるべく、日々カスタマーサクセス活動を行っていますが、最近ではカスタマーサクセスの範囲を超えた活動も多くなってきました。これは事業活動に及ぼすカスタマーサクセスの影響が当社的にも市場的にも広くなっていることを如実に物語っています。
連載の最終回となる今回は、「カスタマーサクセスのその先」をテーマに、最近私が興味を持っている以下の4つのテーマについて語っていきたいと思います。
- SaaSビジネスにおける収益構造の変化
- Customer Marketing(カスタマーマーケティング)
- Account Based Marketing(ABM)
- Community Marketing(コミュニティマーケティング)
これら4つに共通しているのは、SaaS+サブスクリプションにおける既存顧客の位置づけの変化です。カスタマーサクセス自体はビジネスを効果的に運営する手段の一つに過ぎません。しかしながら、もともとは収益基盤を強化するための手法の一つだったカスタマーサクセスが進化し、新規顧客の惹き付けにも有効であることが証明されつつあります。
SaaS+サブスクリプションビジネスを成功させるには、既存顧客に対する認識を改める必要があります。今回の記事をお読みになるにあたり、その点を強く認識されることで新たなインサイトを得られるのではないかと思います。
1.SaaSビジネスにおける収益構造の変化
現在、SaaSという言葉は一般的に「クラウド基盤上で提供されるソフトウェアサービス」を指します。クラウドコンピューティングが世の中で認知され始めたのは2006年頃からとされていますので、2019年現在で13年近くの歴史を持つことになります。ASPサービスから数えると、もっと長い歴史を持つサービスもあるでしょうが、SaaSの黎明期から展開しているソフトウェアサービスは、もう10年以上の歴史を持つことになります。そしてそのようなサービスの多くはサブスクリプションを採用しています。
そのような長い歴史を持つサービスにおいては「収益性の良いサービスは既に、既存からの売上(Retention + Expansion)が新規顧客の売上額を上回っている」というものも多いでしょう。
このような売上構造になった場合、当然ながら新規営業にかけるリソースよりも顧客フォロー(CS)+既存営業にかけるリソースを多くすべきですが、実質的にはそのような体制になっていない組織も多いものです。事実、日本で2017年頃からようやくカスタマーサクセスの重要性が認知されるようになったことがそれを裏付けています。