顧客の“成果”に貢献する──ブリヂストンが挑むコト売りへの転換
山田ひさのり氏(Sansan株式会社、以下敬称略):三枝さんは、タイヤ等の製品を製造・販売する“モノ売り”から、顧客の困りごとを解決する“コト売り”へのデジタル改革推進を統括する「デジタルソリューションセンター」を率いてらっしゃいました。そもそも“モノ売り”から“コト売り”への変換を決めた背景には、どういった考えがあったのでしょうか。
三枝幸夫氏(株式会社ブリヂストン Nest Lab. フェロー、以下敬称略):ブリヂストンはタイヤを中心としたゴムや高分子複合体のハードウェア製品の製造販売を行ってきました。しかし、市場の成熟とともに、高品質の製品を作れば優位に立てる状況ではなくなってきています。2015年頃からそういった危機感を抱いており、ユーザーやマーケットにとって新しい価値を生み出していく企業にならなければいけないと考え、ソリューションプロバイダーへの転換を決めました。
山田:製品の特性として差別化は難しいのでしょうか。
三枝:たとえば航空機用のタイヤや超大型の鉱山トラック向けのものなど、製品特性で差別化できる領域もたくさんあります。 また、乗用車のタイヤでも我々は優れた製品を提供していると自負はしています。しかし、乗用車のタイヤはコモディティ化が進んできており、そこそこの品質なら安いほうがいいと考えるユーザーが増えてきました。将来的にはモノ売りだけのビジネスモデルでは立ちいかなくなると予想しているので、今のうちから手を打たなければならないのです。
山田:ソリューションプロバイダーとしてのサービスには、鉱山向け車両のタイヤやホイールの状態をリアルタイムに把握・管理し、問題の発生を未然に防ぐ「鉱山ソリューション」、運送用トラックやバスに対して、走行で磨耗したトレッドゴムを張り替え、費用を削減しつつ機能を復元する「リトレッド」を円滑に行う「運送ソリューション」などがあると聞いています。こういったサービスを始められた経緯を教えてください。
三枝:トップの方針もあり、2015年にソリューションプロバイダーになる方向で舵を切ったのですが、当時は何をすべきか悩んでいました。お客様に希望を聞いても「故障しない良いタイヤを安く売ってほしい」と製品への要望しか出てこなかったのです。
そこで考えたのが、お客様の“成果”に貢献するサービスを生み出すことです。お客様にとっての成果とは、鉱山であれば「効率よく鉱物を掘って出荷する」、運送会社であれば「荷物を正確に効率よく運ぶ」ということ。つまり、我々が提供ししている製品はあくまで成果のための手段であり、お客様が求めているのは成果を上げることなのです。なので、タイヤのローテーションや空気圧の調整、タイヤ交換などに費用をかけたくないはずですし、タイヤのせいでダウンタイムが増えたり、業務の効率が落ちたりすることもできるだけ避けたいはずです。
ブリヂストンがそういった部分を引き受ければ、お客様は本業に専念することができます。ソリューションプロバイダーとして、お客様のオペレーション効率を向上させることに貢献するという考えにたどり着きました。