「不確実性こそチャンス」と捉える人を増やしていく
──山川さんは、日本企業のイノベーションエコシステムのキーパーソンとして近年特に注目の存在です。現在、多くの起業家を輩出していることで名高い米国・バブソン大学で教鞭をとるようになられたのは、どのようなご経緯があったのでしょうか。
Babson College 准教授/CIC Japan・Venture Café Tokyo 代表理事 山川恭弘氏(以下、敬称略):(以下、敬称略):バブソン大学で教える前は、数々のスタートアップや企業内起業で新しいビジネスの創出に携わってきました。たとえば、1990年代にはインターネット関連インフラ事業など、いずれもまったく何もないところから新しい事業を生み出す「0→1」の仕事が何よりも好きでした。
もともと子どもの頃から世界数カ国で暮らし、キャリアをスタートさせてからも米国の各地域を転々とし、様々な価値観や文化が普通に混在する環境で生きてきました。だから、多彩な人々が異なる力を合わせて新しい価値を創出する場で、自分の力を最大発揮できると感じるのでしょう。個人的な嗜好および資質を起点に、いつしか「イノベーション」を研究および実践のテーマにするようになったのだと思います。
元来ひねくれ者で、みんながコーヒーを選べば、自分はあえて紅茶を頼んでしまう(笑)。そんなところもあって、イノベーションに惹かれるのかもしれません。イノベーションはある意味、企業のビジネス環境に破壊的変化をもたらす異端者が起こすものでもありますからね。
──近年だと「不確実性の時代」という表現をされており、まさに「破壊的変化」が突然起きかねないという不安を誰もが抱えているように思われます。
山川:以前から「不確実性の時代」という表現はどうかと思っています。日本人でなくても不確実で予測不能といわれれば「どうしよう!」と思ってしまうのは必然のこと。不安を増長させて煽るメディアの罪は重いでしょう。ですから、メディアにはポジティブな言葉で表現してもらいたいです。
そもそも、不確実性こそ大きなチャンスなのですから。世の中が変化して、仕組みが再構築されようとしていると考えれば、ワクワクしませんか。創り手側に入れるめったにない機会です。とはいえ、「不確実性をチャンス」と捉えるような人が増えてきたといっても、日本ではまだまだマイノリティです。しかしながら、世界全体で不確実性が普通になるのだとしたら、日本でも「不確実性をチャンス」と捉える人が増えなければ、世界に置いていかれるばかりです。
私は今、「日本が試されている」と感じています。「不確実性」をポジティブに受け取り、イノベーションに取り組む人が増えなければ、未来の停滞は間違いありません。そうした危機感もあって、バブソン大学での私の研究や実践に対してご興味を持たれ、こうして多くの方に要請されているのだと理解しています。
ベンチャーカフェ東京やCICジャパンへの期待感も高いですし、セミナーやワークショップ等、本当に大忙しなのですが、そのデマンドの大きさをエネルギーに変えて成果を出していきたいと思っています。まさに異端や変わり者とされてきた人が主流になり、同時に不確実性に対してネガティブなマジョリティ層の中から“反転する”人が出てくるために最適な場を用意できたと思っています。