決定的な差を生む、「豊富なユーザー接点」と「更新性と拡張性を持つ事業構造」
ビービット 藤井保文氏(以下、敬称略):李さんは中国企業と日本企業、それぞれとの接点をお持ちです。比較して感じることなどはありますか?
野村総合研究所 李智慧氏(以下、敬称略):やはりスピード感にはギャップがあります。日本企業が急成長した「高度経済成長期」は、創業者自身が経営者としてトップダウンでさまざまな意思決定を行ない、物事を推進していました。けれども今では、基本的には事業推進は各事業部門の責任者に任され、ボトムアップで少しずつ合意形成と意思決定を積み上げて、最終的にトップまで上がってきます。その意味でどうしても、意思決定のスピードが遅くなります。
イノベーションを起こすには必ずリスクを伴います。試行錯誤して、複数のプロジェクトを走らせて、一つでも成功すれば御の字です。中国企業では、まずアイデアを形にしてみて、ユーザーに試してもらい評価してもらって、フィードバックに基づいて改善して、改めてフィードバックをもらう。言わば、「アジャイル型」の経営です。
たとえばテンセントの馬化騰(ポニー・マー)CEOはシステムエンジニア出身で、優れたアイデアを考えた担当者をマネジャーに任命し、社内で類似サービスがある場合は、より早く商品化に漕ぎ着けたチームを採用する「社内競争制度」があります。そうやって圧倒的にスピーディな開発を実現しているのです。
藤井:私も両国企業との接点があり同様に感じます。また、他にも経営層の考え方で、両国の違いを感じる部分があります。
ある日系企業が「ボタンを押せばすぐにコールセンターにつながる」デバイスを開発しました。そのデバイスを手にとった中国企業は、「さすが、日本はものづくりの国ですね」と述べてくれたものの、「もしこれをサービス化するとしたら、中国では数億個規模で量産する必要がある。それだけのリソースはありますか?」と。日本企業が想定していたのは数万個程度。当然、実現できるだけの調達生産体制がないわけです。しかも、ハードウェアは更新性や拡張性が悪く、中国のように数カ月単位で社会状況の変わる国では、到底対応できない。
つまり、そもそも発想の起点が根本的に違うのです。アフターデジタルの時代は、どれだけ多くユーザーとの接点を持ち、行動データを取得し、高頻度にアップデートできるかどうかが重要になる。スピード感はもちろんのこと、デジタルの本来的なメリットを理解し、どのビジネスが拡張性と更新性に優れているかという視点を持つべき時代だといえます。プロダクトを中心にビジネスを考えてしまうと、拡張性・更新性を伴ってスケールさせることが難しい。