先進企業に学ぶ、顧客をビジネスモデルに取り込む新たな価値創造とは
安田氏はDXの成功例として、連続起業家の李斌CEOが2000年に立ち上げた中国の自動車コングロマリットである「Bitauto(易車)」を紹介した。いまやTesla(テスラ)に次ぐ新興EVメーカーとして知られる注目の存在だ。大量のデータを保有していることから、中国でカーライフサービスのビジネスを考える上で避けて通れない企業になっているという。
安田氏は「Bitauto(易車)」が急成長した背景に、中国に“車を選べない”事情があったと語る。そこで「Bitauto(易車)」が車を買いたい人のためにメーカー横断で車選びができるカーメディアを展開したことが後の事業展開へとつながったのだ。その後、決済などあらゆる車に関連する顧客接点となる事業を買収・統合し、60以上の企業に投資を行なうことで、カーライフサービス企業として成長した。コンシェルジュサービスやリアル店舗を構え、メーカー横断的に車種を選べるようなサービスを提供したわけだ。そして、多彩な接点によるデータ分析が可能にする深い顧客理解をもとに、そもそもの夢であったEVメーカー「NIO」の設立へと至ったという。
続いて、安田氏は2015年にスタートしたおやつ定期購読サービス「snaq.me」を紹介した。日本初のギルトフリーおやつ専門店であり、会員になれば手に入れにくい自然派のおやつが定期的に届くというサブスクリプションサービスを成功させている。そこで得られた顧客の嗜好データや声を生かして優良顧客向けにオリジナルのお菓子やエナジーバー、アイスクリームなどの製品開発・販売を行ない、さらに企業の福利厚生としてオフィス向けのBtoB事業を開始。現在も業績を堅調に伸ばしているという。
安田氏がDXの成功事例として「Bitauto(易車)」と「snaq.me」の例をあげたのは「両者とも、もとはカーメディアやECという、“モノをつくっていない会社”」だったからだ。近年、デジタル化が進み「サービスエコノミーの時代」といわれる中で、サービス業から始まった「Bitauto(易車)」や「snaq.me」がなぜ逆にモノをつくるようになったのか。安田氏は「企業と顧客の直接的なコミュニケーションが可能になったことで、企業は顧客一人ひとりの利用状況を取得したデータを通じて把握・理解し、顧客目線でサービスの拡充をした結果に他ならない」と解説した。