DXの“3つのステップ”で新たなビジネスを生み出す
「日本の製造業には、DXが既存の業務プロセスを効率化するものと考えている人が多い」と、セッションの冒頭で福本氏は懸念を示す。DXは既存のビジネスの延長線上にあるものではなく、企業の立ち位置や提供価値そのものを進化・変化させる、ビジネスモデルそのものを変革するものだというのだ。
DXは不連続で不確実性をともなうものであり、「既存事業において、どうデジタル技術を活用するか」という視点で見ていては、実現は難しい。DXが実現しなければ、たとえばAmazonによる「アマゾン・エフェクト」のような、破壊的なイノベーターである「デジタル・ディスラプター」が現れた時、生き残ることは難しいだろう。
東芝では、既存のバリューチェーンをデジタルによって効率化すること、既存のモノなどをサイバーフィジカルシステム(CPS)の力で高度化していくことを「デジタルエボリューション(DE)」と呼んでいる。DXは、既存顧客やパートナー、時には競合も含めた新たなステークホルダーとの関係性からエコシステムを構築し、新たなビジネスを創出するものであり、まったく異なるものというわけだ。
そして、東芝ではDE・DXともに取り組んでおり、DEによる効率化で生み出した余力をDXに投資し、新しいビジネスや新しい価値を創出することを事業における課題としているという。
福本氏は、DXにおける3つのステージを次のように定義している。1つ目は、自社のサービスを効率化、高度化するステージ、すなわち「DE」に相当する。ここではIoTによる見える化、データの蓄積・分析・活用、それに基づくソリューションの提供などがある。2つ目は、顧客の業界や業界横断の課題を解決するために、業界全体を最適化するステージである。業界横断型のビジネス基盤構築やプラットフォーム構築などが該当する。そして3つ目は、MaaSなど様々な社会インフラとなるスマートサービスと広く連携し、より広範な社会課題を解決しようというものだ。
1つ目のステージから2つ目への移行は”つながること”によって得られる価値がポイントとなる。さらに3つ目への移行にあたっては、自らの立ち位置を自社から顧客、業界や社会へと移し、視点を変えていくことが不可欠だ。この時、様々なプレーヤーと容易につながる枠組みに準拠し、その価値を早期に得ることが大切になる。そこで注目されるのが、製品・サービスを開発、運用するためのオープンな「共通の枠組み=リファレンスアーキテクチャー」だ。
2018年、東芝では、CPSを実現する製品・サービスの開発・運用のための共通フレームワークとして、「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」を策定し発表した。このアーキテクチャーは、IoTおよびCPSの業界リファレンスモデルである米国NISTのCPSフレームワーク、また世界最大の産業コンソーシアムであるIICのリファレンスアーキテクチャーのIIRAなどを下敷きに、東芝の制御技術やソリューションのノウハウ、R&Dの技術コンポーネントなどが加味されている。
東芝は「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」のもと、様々なサービスを順次リリースするとともに、その内容をIIRAにフィードバックする活動を続けてきた。これによって東芝のテクノロジーをグローバルであらゆるユーザーが活用できるという。