国内市場の動向から注目される“多言語体験”とは
外国人市場が重要なのは日本企業にとってだけではない。世界に目を向けるとグローバル企業のサイトのサポート言語は年々増加している。世界のグローバル企業の主要150社は、平均33言語をサポートしており、Airbnbは2018年から2019年にかけてサポート言語を31言語から62言語に拡大している。同じ期間に、Mastercardは34言語から43言語に、adidasは26言語から32言語へと拡大した。
この背景には、多くのユーザーが母国語で情報を入手したいと思っている現状がある。EU加盟国に住む人を対象とした調査では、19%のユーザーはWebサイトを外国語で閲覧したことがないと答えている。また、10人中9人のユーザーは選べるならば母国語でWebサイトを訪問したいと思っており、42%のインターネットユーザーが母国語以外でWebサイトから商品を購入したことがないと回答しているのだ。
EU加盟国に住む人々は、日本に住む人々よりもマルチリンガルの割合が多いと予想される。それでもこういった結果が出るということは、日本においてはさらに母国語でのサービスを受けたいという需要は大きいと予想できる。
日本はこれまで、優れたインフラや高い製造技術があり、市場規模も大きいことから、国内市場に向けて日本語で発信するだけで競争力を保つことができていた。しかし、国内で働く人としても顧客としても、外国人の割合は年々大きくなっていくと考えられており、日本語以外で発信する必要性が出てきている。日本は既にインフラも整っていてインターネットユーザーの割合も高いため、「日本人向けの日本語での発信」に依存している。しかし今後の伸び代はそれほどない。今後は国内外の外国人市場に目を向けていく必要があるのだ。
また、日本の株式市場における売買比率のうちで、67%は海外投資家によるものである。海外投資家が母国語で情報を得られるように発信していかないと、今後は企業価値が上がっていかないという調査結果も出ている。その調査結果を受けて、今後東証は一部上場企業などに多言語での情報発信を義務付けることを検討しているという。
加えて、世界のEC市場環境も変化している。国境を越えたEC利用は年々増えており、2020年には9,940億ドルという大きな市場ができてきている。多言語対応ができれば、この市場に参入できることになる。
テクノロジーの発展に伴い、顧客体験(CX)や従業員体験(EX)を向上させる必要性が説かれるようになった。それに加え、顧客・従業員・投資家に対する“多言語体験(MX:Multilingual Experience)”を提供できるように整えることが、これからの企業にとって大きなアドバンテージとなるのである。