Zuora Japan桑野氏が語る、サブスクリプションビジネス収益化のポイント
最初に「製造業におけるサブスクリプションビジネス収益化成功のポイント」と題する基調講演を行ったのは、Zuora Japan株式会社 代表取締役社長の桑野順一郎氏。Zuoraは2007年に米国のシリコンバレーで創業し、現在1,000社以上の企業を支援している。世界的なサブスクリプションエコノミーの拡大を追い風に、2018年にはニューヨーク証券取引所への上場を果たした。サブスクリプションがブームとなっている昨今だが、すべてが好調な企業というわけではないと桑野氏は話す。サブスクリプションを従来のプロダクト販売モデルの延長線上として捉え、課金形態だけを月額課金に変えるのみにとどまっている企業は、うまくいかない傾向にあるというのだ。
「サブスクリプションは単なる課金形態の変更ではなく、まったく新しいビジネスモデルだということを理解する必要があります」
と“サブスクリプションビジネス”を正しく理解することの重要性を強調する。
プロダクト販売モデルは良いプロダクトを作って売るまでが勝負だったが、サブスクリプションモデルは売ってからが始まり。1日でも長く利用し続けてもらう必要がある。顧客に飽きさせないための価値を提供し、満足させ続けなければ成り立たない。新たなビジネスモデルでは、プロダクトではなくユーザーであるサブスクライバーを中心に、顧客起点でサービスを進化させていく必要があるというのだ。
この新たなビジネスモデルを成功させるには、契約期間と金額の掛け算で出される「顧客生涯価値(LTV)の最大化」が肝になる。アップグレードやオプションの追加といった単価を上げる施策だけでなく、休止やダウングレードなど、金額を下げてでも顧客に使われ続ける提案も必要だというのだ。たとえば10ギガのストレージサービスを契約しているユーザーが数カ月間5ギガしか使用していない場合、さらに下の選択肢がなければそのユーザーは解約してしまうかもしれない。そこでダウングレードの提案ができれば、解約を阻止することができ、長期間サービスを利用してもらうことに繋がる。桑野氏は、変化するユーザーのニーズに対応した最適なサブスクリプション・ジャーニーの提供が、LTVの最大化には不可欠だと説いた。
「サブスクライバーのニーズは時間とともに変わり続けるので、それを捉えるためには“繋がる”必要があります。固定的なサービスではなく、“永遠のβ版”としてサービスを進化させながら、価値を提供し続ける。顧客について多くを知る企業ほど、顧客のニーズを満たすことができ、顧客と価値のある関係を結べるのです。IoTやDXというと難解で新しいビジネスのように聞こえますが、これは『ビジネスの原点に戻る』ことそのものなのです」
そこで大切になるのが、製品そのものを売るのではなく“結果”を売るという考え方。サブスクリプションビジネスでは、顧客は「製品を通じて提供される価値」に対してお金を支払うようになるのだと桑野氏は話す。たとえばショベルカーやブルドーザーなどの建設機械を提供する企業にとって、建設機械そのものではなく「土を運ぶこと」が、顧客が求める価値となる。そこで運んだ土の量による従量課金にすることで、建設機械の価値を収益化することができるというのだ。
最後に桑野氏は、現時点の製造業がサブスクリプションビジネスで収益化するためのベストプラクティスを紹介した。ビジネスモデルを変革する取り組みである以上トップの決意が必要だが、それだけでは既存の組織やカルチャー、業務プロセスや評価を変えていくのは難しい。そこで重要なのが「従来のプロダクトを扱う既存のビジネス+新規のサブスクリプションのビジネス」という考え方。桑野氏は「まったく異なる2つのビジネスモデルを同じ組織や評価で育てるのは不可能。子会社化をするなどで事業を完全に分けるといった注意が必要です」と説明した。
桑野氏の基調講演に続き、アズビル金門、シヤチハタ、アムニモ、リコーの4社が登壇し、自社の取り組みを紹介していく。