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経営変革の「思想」と「実装」

宇田川准教授が語る、新規事業創出に必要な「成功体験の丁寧な棚卸し」と「支援者の育成」とは?

前編

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 前回のインタビューで、企業が慢性疾患状態を乗り越えるには、経営者、コーポレート、ミドル、現場の社員など、それぞれの立場において「“正しいこと”ではなく“必要なこと”をする」というケアの実践が必要だと語った宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授)。今回は、企業が自ら変わっていくセルフケアがどのように可能なのか、具体的事例を交えてお話しいただいた。そのヒントは、「ポジティブデビアンスの発見」と「支援者の育成」にあるという。

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「誰か他の人がやってくれる」と考えず、自分が「問題の一部である」ことに気づく

──前回日本社会は穏やかに悪化を続ける“慢性疾患”の状態だとおっしゃいました。日本の企業には、それがどのような症状として表れていますか。

宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):「大事な問題を置き去りにしている」というのは皆が感じていることだと思います。でも、それが何なのかがよく分からない。自分が何に困っているのかがよく分からないけれど、とりあえず打てる手を打つ。さまざまなソリューションに対する“依存症”になっているのが、今の企業の状態ではないでしょうか。

──自分ごとになっていない、ということですか。

宇田川:そうですね、「なぜ自分ごとにするのが難しいのか」を掘り下げる必要があります。まず、どこから着手したらいいか分からないから「自分ごと」にならない。いろいろな方法を探し求め、やればやるほど悪くなったりするわけですね。企業として、適切なセルフケアができないから、慢性疾患が悪化し続けるというプロセスに陥っています。

──では、セルフケアについてもう少し具体的に教えてください。

宇田川:「どこから手をつけるのか」を探り始めることが、セルフケアの入り口になります。そのときに非常に大事なのは、「自分がその問題の一部である」と認識することです。そうしない限り、手の付けどころが分からない。

 僕がアドバイザーとして関わっている東洋製罐グループでの事例を紹介しましょう。東洋製罐グループは缶や瓶、PETボトルなどを製造・販売する総合パッケージメーカーで日本最大手です。グループ会社である東洋製罐のテクニカルセンターの中に「何か新しいことをやる」 ということを課されたチームがあります。

 彼らはまず、いろいろなアイデアを必死に考えたのですが、どれも「なんか違う」と却下され続けました。その後、彼らが何をしたかというと、「どうやったら上司が首を縦に振ってくれるだろうか」と考え、昔テレビでやっていた『マネーの虎』を観たそうです。希望した出資が得られる企画とそうでないものには、「事業計画の有無」という差がありました。彼らも、事業アイデアだけではなく、“事業計画らしきもの”を添えて提案するようにしたら、1つ上のステップへ進んだそうです。自分たちなりに少しずつ学んで知見を勝ち取っていきました。

 「誰かがやってくれる。誰かに助けてほしい」と皆が考えている状況で、「必要なことは何か」と考えながらセルフケアを積み重ねていく。実際の新規事業の初期段階は、このようなことが起こっています。

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