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デジタル技術の活用による行動変容

デジタル技術の応用がもたらした行動科学の倫理的な課題──企業の事例で考える善悪の境界線

第6回

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ゆるやかな行動変容によって社会をよりよくする

 Apple Watchを使用している方は、新型コロナウイルス感染対策に対応したアップデートに気づいたでしょうか。11月下旬以降、Apple Watchの最新OSには、手洗いのリマインダー機能、カウントダウン機能が加わりました。前者の機能は、位置情報に基づき、帰宅後に手洗いを行うよう利用者にリマインドしてくれる機能です。後者の機能では、利用者の手の動きや水の音が自動で感知され、20秒のカウントダウンが表示されます。手をこすると秒数が減り、途中で動きを止めるとカウントも止まるという感度のよさです。カウントダウンがなくても手洗いはできますが、どのくらいの時間洗えば十分なのかわからない人も多いでしょう。行動変容を実現するためには、指示をできるだけ具体的に、目に見える形で出すことが効果的です。重要なタイミングで自動的にメッセージを発信し、より確実な感染予防を促すこの機能は、社会をよりよくする方向に行動科学を用いている事例です。

 また、Twitter社は米国大統領選挙にともない、10月から11月にかけ、フェイクニュースや嘘の情報等の拡散を防ぐ一時的な取り組みを実装しました。押すだけで他者のツイートがそのまま拡散されていたリツイートボタンの仕様を一時的に変更し、拡散前にコメント挿入画面が表示されるようにしました。情報発信にかかる手間を一段階増やすことで、反射的なリツイートを減らし、情報の正確性を確かめたり、考えたりしてもらおうという意図です。同社の英語公式アカウントは「2020年米国大統領選挙に関連するコミュニケーションの誠実さを保ち、ツイート前に丁寧な文脈づくりや思慮深い考察を促す新しく重要なアップデートを発表します」と発信しました。なお、選挙終了にともない、現在は通常通りに戻っています。

善い行動科学と悪い行動科学

 冒頭の事例でご紹介したような、「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素」のことを、行動経済学の用語で“ナッジ”と呼びます。選択アーキテクチャーとは、人々が選択を行う環境を指します。これまで紹介してきたように、ナッジは人々の行動変容をゆるやかに促し、社会をよりよくする目的のもと、環境保全や健康促進等の様々な場面で取り入れられています。

 一方、思考や判断に偏りをもたらす“バイアス”や、直観的な意思決定、思考の近道による意思決定の偏りを表す“ヒューリスティック”といった心理的特性は、詐欺や適切な対価をともなわない企業の一方的な利益獲得など、不適切な方向性にも使用されています。こうした倫理的配慮に欠ける行動介入は、ナッジと対比させ“スラッジ”と呼ばれています。

 ナッジを含む行動科学の応用先は多岐にわたり、社会的価値の高いものも、倫理的な善悪が曖昧なものもあります。では、善い行動科学と悪い行動科学の境目はどこにあるのでしょうか。デジタル技術と行動科学を組み合わせ事業に取り入れていく上で、どのような点に注意が必要でしょうか。これらは専門家の間でもまだ議論が成熟しきっていない部分ですが、読者のみなさまと一緒に考えていければと思います。

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この記事の著者

藤井 篤之(フジイ シゲユキ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

一宮 恵(イチミヤ メグミ)

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