『The Future of Service Design[1]』の主たる想定読者はサービスデザイナーだが、サービスデザインの考え方や手法はいまやビジネスに不可欠なものとなっており、一般のビジネスパーソンへの示唆にも富んだ内容と言えるのではないか。イベント前半では日本語版の翻訳・監訳を務めたデザインエージェンシー・コンセントのサービスデザイナー赤羽太郎、長尾真実子、猪瀬景子氏が60分で概要を紹介。後半にはSDN日本支部の共同代表である慶應義塾大学教授の武山政直氏、株式会社レアゾンホールディングス執行役員の岩佐浩徳氏、株式会社コンセント代表取締役/武蔵野美術大学教授の長谷川敦士氏が加わり、サービスデザインの未来に関していくつかの論点で議論した。
サービスデザインの「これまで」と「これから」
サービスデザインに関する最初の論文が、1984年にHarvard Business Reviewに掲載されたリン・ショスタック氏による「Designing Services That Deliver[2]」であることはサービスデザインに関わる人々には知られている。しかし、国際組織SDNの本拠地がなぜドイツにあり、今日までどうやって発展してきたのかはあまり知られていない。
1980年代後半、ドイツデザイン協議会のトップが社会システムデザインやビジョンデザインをデザイナーの仕事とすべくサービスデザインの新しいアワードの創設を提案するが、猛反対に遭う。90年代に入り、同じ人物がケルン工科大学で高等教育プログラムを作る際にサービスデザインの学部を構想するが、ここでも人が集まらず、また教えられる人もいなかった。そこにビルギット・マーガー氏が登場するところから、今日までのサービスデザインの発展というストーリーが始まる。
当時は「サービスデザイン=人間中心デザイン+包括視点」といった定義づけはまだされておらず、サービス体験をよくするためにさまざまな角度から実験が繰り返された。ただ、初期段階から企業とエージェンシーとアカデミアが共同で研究を進めていたため、良い成果が出た際には論文になると同時に再利用可能なプロセスやツールも開発された。その結果、2000年代に入り急速にサービスデザインの普及拡大が始まる。
現在では、サービスデザインをビジネスに活用するのは当たり前という「ニューノーマルの時代」に突入している。レポートでは、グローバルな専門家や実践者との議論を踏まえ、今日のニューノーマルの状況のさらに先に重要になる観点として「企業組織(ビジネス)」「行政」「教育」「テクノロジー」「倫理」「持続可能性」「組織文化」「未来予測」の8つのトピックを提示している。
[1]“The Future of Service Design” (Birgit Mager, Martin Sistig, Yushi Chen, Kalia Ruiz, Carolina Corona, 2020)
[2]“Designing Services That Deliver” (Lynn Shostack, Harvard Business Review , 1984)