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実践UX入門

アフターデジタル時代の海外UX潮流

第2回

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 UXを実践していくためには学習が欠かせません。しかし、成功事例を収集したり、セミナーを聞いたりするだけで、なかなか実践に移せないと悩む人も多いのではないでしょうか。学びを実践に活かすには、インプットした情報を整理し、活用できる状態にすることが第一歩です。UXインテリジェンス協会(UXIA)による本連載では、UX事例から学びを無駄なく抽出するフレームワークを紹介しています。このフレームワークは、優れたUXを実現するために必要な5要素で構成されています。第2回では、要素の1つ「時代背景・トレンド理解」について詳しく説明します。

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UXの実践に欠かせない要素

 前回紹介しましたが、優れたUXを実現するために必要な要素とは、次の5つです。

  1. 時代背景・トレンド理解
  2. ユーザー理解
  3. UXづくり(戦略・事業)
  4. UXグロース・改善
  5. 組織づくり

 UXの書籍や成功事例を見聞きする際、ただ闇雲にインプットするのではなく、この5つの観点を持った上で触れると、UXの実践に必要な学習ポイントがより抽出しやすくなります。

 今回は「1.時代背景・トレンドの理解」の観点を養うために、「海外潮流レポート」を紹介します。これは、株式会社ビービット 執行役員 CCOでありUXIA事務局長を務める藤井保文氏が、「アフターデジタル」という世界観を踏まえて独自にまとめた分析レポートです。

 流行が国や地域、時代によって違うように、UXも時代の変遷や国・地域によって異なる場合があります。「どのような時代背景が消費行動に影響しているのか」「価値観の変化がどのような社会的背景によって引き起こされているのか」などに着目することは、UXを実践していく上での重要なポイントになります。このレポートを読むことで、この着眼点でインプットを整理していく感覚を掴むことができるでしょう。

アフターデジタル概論

 まず初めに、UXの世界潮流を学ぶ上で前提となる「アフターデジタル」の世界観について解説します。「アフターデジタル」とは、企業やビジネス、サービスがUXドリブンにならないと生き残れない時代を示す言葉です。なぜUXの重要性が高いのか、その理由は次の通りです。

  1. モバイルやIoTでデジタルリアル融合時代がやってくる
  2. 行動データが大量に得られる
  3. できる価値提供や顧客理解が変わる
  4. 製品販売だけでは行動データを得るには不十分で、体験提供が必須となる
  5. 「UXが良い→行動データが溜まる→UXが良い」のループが競争原理になり、UXが良くないとデータも溜まらない

 1つずつ説明します。

1.モバイルやIoTでデジタルリアル融合時代がやってくる

 これからデジタルリアル融合時代がやってきます。

 たとえば、道端で手を挙げてタクシーを捕まえていた時代から、タクシー配車アプリで手配する時代になりました。「これはデジタルか? リアルか?」と問われれば、デジタルを使いながらリアルでタクシーを呼んでいるため、はっきりどちらかだけを答えるのは難しいでしょう。

 支払いにペイメントアプリ、食事にデリバリーを利用するときも同様です。このようなことが進んでいくと、「リアルがメインでデジタルはおまけ」という構造から、「デジタルが起点でリアルな接点はレア」の構造に移っていきます。企業はこの場をどう活用するかが考え方の基本になっていきます。

アフターデジタルの世界観。オフラインがデジタル世界に包含される。
アフターデジタルの世界観。オフラインがデジタル世界に包含される。
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2.行動データが大量に得られる

 デジタルリアル融合時代になると、行動データが大量に出てきます。

 タクシー配車アプリを使うと、出発地から目的地への移動データが残ります。飲食店に入ってペイメントアプリで支払えば、そのデータも残ります。ビフォアデジタルの世界では、コンビニのPOSデータの中に「どの商品が買われたのか」レベルの情報は残っても、「私」という一人のIDに紐づいて、誰が、いつ、どこで、何を買ったかまでは残りませんでした。このような行動データが残るようになったという変化は、デジタルリアル融合時代における大きなポイントです。

3.できる価値提供や顧客理解が変わる

 行動データが大量に出てくると、企業ができる価値提供や顧客理解が変わります。

 ビフォアデジタルの時代では、属性データをベースにしていました。そのため「渋谷区に住む30代男性」に対し、その人がランニングをしていたとしてもビジネス書をレコメンドするようなミスマッチが発生していました。

 しかし、アフターデジタルの時代になって行動データが得られるようになると、ランニングをしている人には走り方のアドバイスを提供できるようになります。

 つまり、属性という漠然とした形ではなく、時間や状況単位で細かく顧客を理解できるようになれば、企業ができる価値提供の内容や方法が変わってくるということです。

4.製品販売だけでは行動データを得るには不十分で、体験提供が必須となる

 顧客理解の解像度が上がれば、できる価値提供が変わります。しかし、単に物を販売するだけを考えていたら、うまく行動データを活用することはできません。もし5年に1回しか買わないようなものであれば、そもそも接点が少なく顧客理解はできませんし、毎日接点があるコンビニだとしても「朝に来たなら夜も来てもらうクーポン発行」くらいしかできないでしょう。

 このように製品販売だけのビジネスモデルでは、最適なタイミングで最適なコンテンツを提供することはできません。顧客の置かれている状況、たとえば自己実現したいとか、美しくなりたいとか、もしくはペインポイントに対して何かしらソリューションや価値を提供するためには、顧客に寄り添った体験提供、つまりUXを提供し続けることが重要なのです。

5.「UXが良い→行動データが溜まる→UXが良い」の好スパイラルが競争原理になり、UXが良くないとデータも溜まらない

 では、どのようにすれば企業は行動データを得られるのでしょうか。それは、ユーザーがサービスを一途に使い続けてくれることによって得られます。

 「行動データを取りたいのでこのアプリを使ってください」なんて言われても使わないですし、普段アプリをダウンロードしても不便であれば使うのを止めるでしょう。逆に、「自分に合っている」「便利だ」「おもしろい」と思ったものは使い続けるはずです。

 使い続けると、行動データが溜まる。企業はそのデータをUXに還元し、他のサービスには追いつけないレベルの体験が得られるサービスにする。そうするとさらにユーザーが集まり、より多くの行動データが溜まり、そしてまたUXに還元し、もっと体験が良くなる。このような好スパイラルを生み出すことで、他社との競争に勝っていくことができるのです。

 以上のような世界観が「アフターデジタル」です。ここからは、この世界観から見たグローバルのUX動向と、その見方について説明します。

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一般社団法人UXインテリジェンス協会(UXインテリジェンス協会)

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