マーケティング業界に学ぶ、デジタルとリアルの「データ融合」と「経営への活用」
――データ収集や分析によるチューニングは特にデジタルの世界で急速に広がり、進化しました。今後はリアルの世界でも期待されています。
萩原:
そうですね。かつてはデジタルとリアルで分断されていたデータが、技術の進化によって融合されつつあります。確かにECサイトで行われているようなオンタイムでのチューニングが、リアルビジネスでも可能になるでしょう。
たとえば、ライオンの「Lidea(リディア)」や資生堂の「ワタシプラス」など企業が自ら運営する生活者情報メディアから得られるデータは、DMPとの連携によって、オンラインとリアル両方のマーケティング施策に活かされています。またユニクロなど小売業界でも、iBeaconでリアル店舗での行動をデータとして取得することで購買に至るプロセスを分析しようとしています。たとえば、試着したけど購入されなかったもの、場所を移動したら売れるようになったもの、というような情報が得られるわけです。Yahoo! JAPAN IDとTポイントカードの連携もデジタルとリアルの融合が目的の1つです。
さらに、買物後の行動データにも期待が集まります。これは「POS(point of sales:販売時点情報)」に対して「POU(point of use:使用時点情報)」と呼ばれます。アプリやゲームなどで「どうやって使われているのか」というデータが取得されており、サービス改善や新たな製品開発へと活かされています。まだデジタルの世界に限られていますが、今後さらにIoTが進化すれば、冷蔵庫や洗濯機といった家電などを中心に早々に実現するかもしれません。
こうして人々の行動がすべてデータ化されるとなると、ちょっと戸惑うかもしれませんね。しかし、こうしたデータの取り方は、「経験サンプリング」が主流になると考えられています。つまり、かつてのようにF1、F2などの年齢や性別などのセグメントで分析するのではなく、経験と経験の相関関係を測ろうというものです。たとえば「Suica(スイカ)」を使って朝にKIOSKで缶コーヒーを購入した人は、昼コンビニで何を買うかといったデータが大量に蓄積されることで、何かが見えてくる可能性があるというわけです。
こうしたリアル行動のビックデータがとりわけ注目されたのは、2011年3月の東日本大震災でした。携帯電話のGPSや、自動車のセンサーが取得したデータにより、有事の際に人々がどのような行動を取るのかが分析、予測され、それを防災計画へと役立てることが模索されています。インフルエンザと気づかない人のSNSでのつぶやきから、2週間後のインフルエンザ流行の予測ができたり、家計簿データからブランドスイッチの行動が予測できたり、様々な分析が新たなサービスへと昇華しています。
他にも、日立製作所中央研究所の矢野和男さんがウェアラブルデバイスから得られたデータの分析から身体性と幸福度との相関を見いだしたり、大阪ガスビジネスアナリシスセンターの河本薫さんが社内の埋もれたデータ分析からビジネス効率を劇的に改善するなど、優れた実践活動も広く知られるようになりました。デジタル化によってリアルでは見えなかったものが可視化され、実証されるといったことが、今後はもっと増えていくのではないでしょうか。