データドリブンな組織構築に向けて―「データ統合」をいかに行うのか
――ビジネスリーダーのデータ活用を促進し、データ分析を経営に活かすために、トップや組織に求められるものは何だと思われますか。
萩原:
スティーブ・ジョブズや古くは本田宗一郎さんのようにはっきりと「マーケティングリサーチは信用しない」という経営者は今でも多いですね。
一方、セブン&アイ・ホールディングスの伊藤雅敏さん、ネスレ日本の高岡浩三さん、キリンビバレッジの佐藤章さんのように、顧客インサイトを重視したマーケティングセンスを持った経営者も増えています。いずれの方もデータが重要であると理解したうえで、「データ分析だけでは“イノベーションにつながる新発想”はない」と理解している点で共通しているように思います。
つまり、データ分析がもたらす恩恵を理解し、信頼しながら、頼り切らない、その絶妙なバランス感覚が必要なのでしょう。その上で、データから事象を可視化するデータ・サイエンティスト、および前述したようなビジネスリーダーの感度の強化に取り組む必要があります。
そして、何と言っても日本企業におけるデータ活用の障壁となっているのが、「データの分断」です。現場ごとにシステムやデータベースが異なると、紐づくデータもバラバラ。単に1つのところに集めれば良いわけではなく、属性の分け方や数値の単位なども変われば、統合するのは大変な手間がかかります。しかし、たとえばSNSやWeb、メールや店頭などのあらゆるタッチポイントでのデータを一元化したり、部門ごと縦割りだったデータを横串しで連携させたりすることができれば、顧客などの対象を深く理解することができるでしょう。近年では、そうしたデータ統合をシングルソース、あるいはプライベートDMPなどと呼び、組織の課題として重視するところが増えています。
さらに、日本全体でデータを活用していくのなら、やはりオープンデータの整理は重要な課題ですね。海外では「誰かが再利用する」前提でデータが公開されているのですが、日本では国際調査などのデータも、空欄が入っているなど、そのまま使えないデータがほとんどです。それでも民間レベルでは、各社に存在するデータをシェアし合う「データエクスチェンジ・コンソーシアム」という活動なども始まりました。今後ますますそうした活動は活発化していくと考えられます。
そろそろ「俺のデータは俺のもの」という感覚を払拭し、「データをデータとして使うために、最適化して共有するのが常識」という文化を浸透させていくこと。それが今の日本と日本企業に最も必要なデータリテラシーであり、私自身も様々な立場から働きかけを行っていきたいと考えています。