ネットワーク効果研究の進化
著者のアンドリュー・チェン氏は、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーです。本書で解説される内容は、彼が投資家やスタートアップの取締役として得た経験、インタビューや調査で得られた事業開発やプロダクト開発における重要事項をフレームワークとして体系化した書籍です。具体的には、事業やプロダクトのライフサイクルを、初期・中期・終期に分け、それぞれのアクションを「コールドスタート理論」というフレームワークにまとめています。
まず本書で紹介される「コールドスタート理論」の解説の前に、どのような場面で誰がこの理論を活用できるのか、ベースとなるネットワーク効果などに触れた部分を紹介してきます。
想定される読者は、スタートアップであれば経営者やプロダクトマネージャー、大企業であれば新規事業開発責任者などが想定されます。新規プロダクト開発や新規事業開発の初期段階での課題解決(初期ユーザーの獲得や維持)、中期でのプロダクトや事業のスケール、終期のMOATと呼ばれる参入障壁の構築に課題を感じている読者すべてになると思います。
本書では一般的なネットワーク効果の定義、メトカーフの法則とその課題、生態学研究の知見から導き出されたアリー効果などに触れ、これら土台となった理論との共通点や相違点から、コールドスタート理論の骨格を提示します。
ネットワーク効果とメトカーフの法則
一般的にビジネス上で語られる「ネットワーク効果」とは、多くの人が使えば使うほど製品の価値が高まる」ことです。現在ではTwitterやUberなどのプラットフォームビジネスにとって、欠かせない要素が「ネットワーク効果」です。
過去のネットワーク効果に関する研究で有名なものとして「メトカーフの法則」があります。これは「ネットワークの価値は、そのネットワークに接続するユーザー数の2乗に比例する」と定義されるものです。
この法則は1990年代後半以降のドットコム企業の多くが参考にしましたが、その成果は芳しくなかったようで、メトカーフの法則を一般ビジネスに当てはめることに課題があることが発見されました。
特に大きな課題として指摘されたのが、初期段階に具体的に何をすればいいのかに言及されていない点だとします。要は、法則としてシンプルなモデルで浸透したものの、現実社会の複雑さには適応できていなかったというわけです。
生態学での「群れの研究」から得たヒント
「メトカーフの法則」の課題への解決のヒントになったのが、著者が大学の生態学の講義で学んだ「ミーアキャットの研究」で、動植物の個体数を表す数理モデルを学んだ講義でした。ミーアキャットなどの群れで暮らす社会性動物の個体数を表すモデルは、ネットワークの動きに似ていることに気づいたと言います。
群れを作る動物の研究は1930年代から存在し、シカゴ大学のアリー教授の論文が有名なようです。その中でも「アリー効果の閾値(しきいち)」がネットワーク効果との関係で重要で、群れの安全が守られて個体数が増えやすくなる転換点、つまり閾値の存在が明らかになりました。
また群れの個体数がある一定のところまで増えることで、さらにその群れは繁栄しますが、どこまでも個体数は増え続けていくのでしょうか。生息可能な地域で捕食できる餌にも限界があるため、特定地域では一定数のみしか生存ができません。それが「環境収容力」という、特定地域で生存可能な個体数で表現されます。この環境収容力を超えると群れの数は減少していきます。
このミーアキャットの研究で得られた「アリー効果の閾値(しきいち)」をビジネスに当てはめることは想像しやすいかと思います。新しいSNSやプラットフォームでは、ある一定のユーザー数に達しないものはネットワーク効果が働きません。また、急激にユーザーが増えることで、そのユーザーコミュニティが持っていた質やユーザー体験が低下することで、そのプラットフォームは価値を下げ、ある転換点を超えるとユーザー数は減少し始めます。