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実践フェーズの人的資本経営

「良い人的資本開示」とは何か? 田中弦氏が語る、「自社への“知覚”」が変わる人的資本経営実践の意義

【第1回】Unipos株式会社 代表取締役社長CEO 田中弦氏

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 人的資本経営の実践は、ほぼすべての企業が向き合うべき重要課題となった。2023年3月期決算より、企業は有価証券報告書に「人的資本と多様性」に関する情報を記載しなければならない。本連載では、ステークホルダーの信頼や期待を集める人的資本経営を実践している企業を追う。第1回は、連載のホストであるUnipos株式会社の代表取締役社長CEO 田中弦氏に、編集部が話を伺った。同氏は、日本企業957社の統合報告書に目を通し、各社の人的資本開示や戦略、傾向を分析。その結果、充実した人的資本開示を行っている企業には、ある共通点があったという。“良い人的資本開示”とは何か。また、人的資本経営を実践する理由として押さえておくべきポイントとは?

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人的資本経営の本質と向き合い方

──田中社長は最近、たくさんの日本企業の統合報告書をお読みになり、各社の人的資本情報開示について分析されているとお聞きしました。どのような狙いがあるのでしょうか。

田中弦氏(以下、敬称略):企業の人的資本経営を支えるUniposの代表として、以前から「競争力を高める人的資本開示」についての独自研究を行い、お困りの企業様には個別にアドバイスもさせていただいております。今年はこの研究をさらに深めようと、上場企業で統合報告書やCSRレポートなどを発行している957社の情報に目を通し、その中から非常に良い人的資本の情報開示を行っている企業を分析したのです。

 全部で150時間くらいかかりましたが、これを公開すれば、皆さんの学びのコストと時間がかなり節約できるはずです。リサーチは僕が頑張るので、皆さんにはぜひ人的資本経営の実践に取り組んでいただきたい。そうすれば、社会的なインパクトも大きいのではと考えて、分析で得られた成果を日々発信しています。

──素晴らしいお取り組みですね。しかし、そもそも人的資本経営はなぜ必要なのでしょうか。

田中:少子高齢化が進んで、人の採用がどんどん難しくなっていくという問題に、日本企業は世界で一番早く直面します。対応として、AIなどテクノロジーを活用するという方法もありますが、次に求められるのが「人、モノ、金」のうちの“人で解く”ということだと思っています。それが、日本で人的資本経営が注目されるようになった背景ではないでしょうか。

Unipos株式会社 代表取締役社長CEO田中弦氏
Unipos株式会社 代表取締役社長CEO
田中弦氏

──人的資本経営によって、企業が得られるメリットは何だとお考えでしょうか。

田中:結論から申し上げると、「すぐにリターンやメリットを享受できるとは考えなくてよい」というのが、私の考えです。

 もちろん、人的資本とファイナンス面でのリターンに相関関係があることは以前から示されてきました。たとえば、元エーザイのCFO 柳良平氏が開発した「柳モデル」などでも、そうした非財務資本と財務資本の関係が示されていますよね。また、最近では味の素も、従業員のエンゲージメントスコアと売上利益に相関があるという調査結果を公開しています。このように、人的資本経営に取り組むファイナンス面での意義を説明しようという取り組みが、近年進んできていますね。

 しかし、「人的資本に取り組めば、翌年には売上と利益が上がる」などということは、誰にも証明できないでしょう。私も数多くの統合報告書を見てきましたが、「人的資本開示が充実しているな」と思う会社について、「これから売上利益が伸びると思いますか?」と尋ねられても、正直なところ分かりません。

 なぜ分からないかというと、時間軸が違うからです。「10年、20年後に若手不足の中でたくさんの社員が引退していった後、少ない資源でどうやって戦っていくのか」という問題を解くために今から長期的な視点で取り組むのが人的資本経営ですから、すぐにリターンがあるかどうかを考える必要はないでしょう。逆に、今から人的資本の情報開示をきちんとやっておかないと、投資家からは「将来大丈夫かな」と思われてしまうという事実はあると思います。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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