「クリステンセンが教えてくれた大切なこと」を“しゅんぺいた博士”に聞く

玉田俊平太氏インタビュー(前編)

クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』は刊行以来、多くの読者をつかんできた。この本の日本版の監訳者は現在関西学院大学ビジネススクール副研究科長の玉田俊平太教授。経産省に在職中にハーバード大学に留学し、この本に出会ったという。イノベーション理論の泰斗、J.シュンペーターの名にちなんだ「しゅんぺいた博士」(本名)が、クリステンセンの理論に出会い、日本での普及に一役を買った経緯と背景を語っていただいた。(記事上写真:Photography by Keitaro Yoshioka)

[公開日]

[取材・構成] 京部康男 (Biz/Zine編集部) [聞] 中村 理 [語り手] 玉田 俊平太

[タグ] 競争戦略 企業戦略

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経産省からハーバードへ

関西学院大学経営戦略研究科副研究科長 玉田 俊平太関西学院大学経営戦略研究科副研究科長 玉田 俊平太

——経産省にいらした玉田先生がハーバード大学に入学したきっかけって何だったのでしょうか

玉田 入学したきっかけは多くの皆さんと同じで、それまで学んだ知識に限界を感じたことですね。大学では目的意識を持たずに勉強したから、ふわっとした知識しか身についていない。それでいきなり社会人になって「お前これ、あさってまでに答え出せ」って言われるんです。データは集められるかもしれないけど、しっかりした理論が身についていないので、どう結論を導いていいかわからない。でも仕事しろ、結果出せって言われる。そういうことが、すごいストレスだったんですね。

——経産省だったら過去の先輩のやり方が伝えられたり、資料が残ってたりするんじゃないですか?

玉田 いや、もちろん残ってはいるんですが、経産省って実はやんちゃな文化で、あんまり先輩の前例を踏襲したりしないんですよね(笑)。

——ああ、そうなんですか。

玉田 経産省って、常に新しい政策領域を探しているところがあります。そのころ私の上司が書いた論文は、大学も産業政策の一環として考えよう、みたいなテーマでした。彼がジェトロのサンフランシスコにいた時の経験によるもので、「スタンフォード大学が、どうやら大きな経済効果をもたらしてる。大学発ベンチャーも起きてる。だから、産学連携とかベンチャーっていうのが、日本経済活性化のキーになりそうだ」という内容だったんですね。それでそのテーマにもとづいて、「お前ら何か具体的な政策を考えろ」って言われて、えーっと思って(笑)。

——なるほど。面白いですね、

玉田 役所ができることって、たとえば予算を財務省から貰ってきて、補助金を考えるとかですよね。あとは、法律を作って何かを特別扱いにするとか、税金をちょっと優遇するとか、そういうアウトプットのための政策ツールはいろいろあるんだけど、理論のフレームワークがなかった。なのにいきなり「考えろ」と言われる。そのことにすごくプレッシャーとストレスを感じました。しかも勤務時間が長いんで、なかなか勉強して本読む時間って取れないんです。なので日々の何とはなしの思いつきとか、何か新聞記事の断片でものを考えるのが精一杯。そういう状況の中で、知識とか理論に対する渇望感が段々と高まっていき、そういう時に先輩が、役所には留学制度っていうのがあるよと教えてくれた。

——生活費は出してくれるんですか?

玉田 そうですね。生活費と学費の一部ですね。いわば電車の乗車券は買ってあげるから、あとは自分で大学院に応募して指定席券を取りなさいと。でコロンビア大学とスタンフォード大学とハーバード大学のマスターにアプライしました。あとMITかな。で、コロンビアとスタンフォードとハーバードから合格通知がきたんです。でもスタンフォードは大学内にゴルフ場とかあって、環境が良すぎる(笑)。それでもうちょっと寒くて雪に降りこめられるボストンのほうが勉強に集中できるかなと思って、ハーバードにしました。

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