企業変革は既存事業や既存組織へのリスペクトから始まる
──ここからはまず、東芝テックでの新規事業の位置付け、そして既存事業への影響についてお話をお聞かせください。
鳥井敦氏(以下、敬称略):私は前職含めて、新規事業を長らく担当してきましたが、絶対にしてはいけないのは“既存事業を否定すること”で、ご法度だと思っています。先人が既存事業で築き上げたブランド力や事業アセットが次のステージで使う武器となり、手元に残ります。“新しいことの方が必ずいい”は幻です。私は、既存事業の人たちへ最大限のリスペクトを持ちながら、それでも変わらなければならない部分をどう一緒に変えていくかというスタンスでコミュニケーションをしているつもりです。
既存事業に従事する人たちも自分たちが永遠に今のままでいいとは思っておらず、どこかで変化しなければならないと考えています。しかも自分たちだけで変わっていくことは難しいとも思ってくれています。そこでどう協力できるかという話に焦点をあてなければ、うまくいきません。
我々のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は両利きの経営における探索組織です。それを専門的にやっている部隊だからこそ、目線は外を向いていますし、新しい世の中の流れに触れることが多いです。ただこれは役割分担の違いなので、他の従業員を「社内ばかり向いていて世の流れを知らない」と非難するのはナンセンスです。外に目を向ける役割の人が世の潮流に詳しいのは当たり前です。既存事業に従事する人たちとそれぞれの専門性をどう掛け合わせていくかを考えるのが、企業を変革する際には重要になってきます。
また、当社のCVCには、出資したスタートアップ企業と既存事業とのコラボレーション領域を設定したり、実際にコラボレーションを始動させたりする役割もあります。このためには、「CVC部門の取り組みは面白く、価値のある情報をくれる人たちだ」と認識してもらう必要があります。楽しいことをやっているだけではなく、実際に価値があるのだと認めてもらうことが重要です。今は、ようやくそのステージに上がり始めているところではないかと認識しています。
平等弘二氏(以下、敬称略):そうですね。今年に入ってから、ようやく少しずつ理解をしてもらえていて、出資させていただいたスタートアップ企業も既存事業部門に紹介できています。
十数社に出資をしている中で、既存事業に比較的近い領域で活躍するスタートアップ企業は、事業部の顧客に紹介しやすいこともあり、接点が深まってきました。また、ダイナミックプライシングを行う企業など、当社の商材に重要な影響を与えていくと思われるものもあり、短期的に成果が出ることが想定できます。
一方で中長期的には、出資先のスタートアップ企業が営業をし、既存事業部門のメンバーがその営業をサポートしていく中で、当社の営業現場のカルチャーが変わるということも目指しています。