「わかりやすさ」がコミュニケーションを加速させる
think-cellは、ボストンコンサルティンググループやマッキンゼーグループの全世界全社員が使うなど、戦略コンサルファームがこぞって使うPowerPointツールである。なぜそれが必要なのだろうか。コミュニケーションについて考え、心理学、行動経済学、脳科学を学んで自分なりに方法論として体系立て、現在では東京大学工学部でも指導をしているという松塚氏は、次のように3つのデータを紹介して説明を始めた。
3つのデータはいずれも、「日本の広告市場は回復しており、引き続きインターネットがけん引している」と伝えるものだ。1つ目のデータは次のような、Excelで作られた表である。
濃い緑の部分に年ごとの合計金額が書いてあり、その数字を追うと2020年以降は伸びているとわかる。また、インターネットでの広告費も数字を追えば、確かに伸びているとわかる。しかし、これは表を読む人がしっかり数字を見て頭で考える手間が発生しているといえる。
2つ目のデータは、Excelで作ったグラフだ。
棒グラフを見ると、コロナ禍の2020年でいったん落ちるものの、右肩上がりだということはわかる。また、青い領域はインターネットでの広告費を示しており、確かに伸びていることはわかる。ただ、このグラフだと「プロモーションメディアも意外と大きい」とか「テレビも減ってきているとはいえ、無視できない」など、余計な部分も気になってしまうかもしれない。
ではこのようなグラフだったらどうだろうか。
全体の成長度合いが2019年までは平均成長2.3%であり、直近だといったんコロナ禍(covid)によって落ちた後、成長率は4.45%になるなどと、成長率が加速していることが直感的にわかる。さらにこの緑で示されたインターネットの領域が明らかに大きくなってきていることもわかる。このグラフはthink-cellで作ったものだ。
今、各社は「両利きの経営」として、既存事業での「知の深化」と、新規事業での「知の探索」を行っている。新規事業に取り組む際には、リサーチをして可能性を探り、事業の魅力や価値を関係各所に適切に伝えて腹落ちさせ、進めていくプロセスが非常に重要だ。松塚氏も前職の位置情報を活用した広告ビジネスを行うスタートアップ企業で、既存事業を行いながら探求事業も行っていた。その時に実感したのは、新規事業が本格化していくほど関係者が増えてきて、コミュニケーションが難しくなってくることだったという。
様々なステークホルダーが関わってくると、前提となる情報の質や量が違い、見ているスコープも、意思決定の判断軸も異なってくる。様々な人がいる中で、可能性があると事業担当者が考えたものをきちんと説得していくことは、新規事業を育てていく上で非常に重要だ。