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オープンイノベーション推進の課題となる「EXITの時間軸」──事業会社が持続可能な投資を実現するには

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 日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)によれば、2022年度の国内スタートアップの資金調達額は8774億円となり、同調査の始まった2013年から10倍以上に成長しました。日本政府はこの数字を2027年度に10兆円水準とすべく各種の施策を打ち出しており、その3本柱の取り組みの1つに「オープンイノベーションの推進」がうたわれています。本稿の読者にも、オープンイノベーション推進のため、本体投資、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)投資、そしてファンドへのLP出資などの取り組みをしている/することになったという方がいらっしゃるのではないでしょうか。本稿では、そうした事業会社によるスタートアップ投資の拡大に向けて、これからハードルの1つとなりうる、「EXITの時間軸」に関する課題をテーマに取り上げました。持続可能な形でスタートアップへの投資に取り組みたいとお考えの皆さまの参考となれば幸いです。

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スタートアップ投資の現在地

オープンイノベーションとスタートアップ投資

 オープンイノベーションとは「企業内部と外部のアイデアを結合し、新しい価値を生み出すこと」です。過去に多くの企業は自社内での研究開発を当然のこととし、知的財産を厳格に保護する自前主義の体制でした。しかし、外部環境の変化により2つのフェーズでオープンイノベーションが加速していきます。

 まず企業単体・本体の動きとして1990年代以降、技術の急速な進化、グローバル化と新興国企業との競争などが起こり、自前主義体制で新製品や技術を継続的に開発するのが難しくなりました。その結果、主に大学や研究所といった学術機関が有する優れた技術を事業化することを目的に、オープンイノベーションが提唱されるようになります。現在では、製品や技術分野だけでなくサービス領域でも、外部の知見を取り入れ新事業・新市場創出を目指す企業が増え、オープンイノベーションの意味合いや範囲が広がりました。

 また、研究補助金や出資といった金銭を介在させた事業開発として、スタートアップと連携しての技術・イノベーションの活用が世界的な潮流となりました。この文脈では、日本でも2015年頃よりCVCの創設やインキュベーション施設、アクセラレータープログラムの設置が進みました。2000年頃にもCVC設立が相次いだ時期がありましたが、その当時と違い、大企業とスタートアップがお互いの強みを連携させ、新しい事業を共創しようという動きが生まれ始め、今も続いています。

 本稿での「オープンイノベーション」は後者に代表されるような、「スタートアップへの出資等で事業高度化を実現するケース」を想定します。

「事業シナジー」とスタートアップ投資

 さて、CVCファンドやCVC子会社の設立(総じて「CVC活動」と呼びます)は、グラフにもあるとおり大きく増えていますが、活動の成果はどのように評価されているでしょうか。PwC Japanグループが国内のCVC実務者を対象に実施した調査「CVC実態調査2019」では、「CVCファンド設立の目的」として回答者の8割以上で「事業シナジー」に期待しており、「事業シナジーを実現できたかどうか」が活動の評価軸となっているだろうことがわかります。なお、この調査では全体の2割以上が「活動がうまくいっていない」と評価しており、そう回答した会社ほど、「思ったほどシナジーがない」を課題としてあげていました。

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 「事業シナジーがない」要因の分析には数多くの文献があるためここでは言及しませんが、CVC活動によるオープンイノベーションは期待薄なのかというと、もちろんそのようなことはなく、企業が求める期待値や効用の定義が不明瞭な点に課題があるのだと思われます。

 スタートアップ投資の目的は、大枠として財務リターンと戦略リターンにわけることができますが、一般的にCVCや事業会社は、戦略リターンを追求するといわれています。既存事業の延長では達成に時間がかかるような戦略を実現するためのツールとして、スタートアップ投資を位置づけるからです。それゆえ、「CVC活動でシナジーを生む」には、まずは自社にとっての戦略リターン、言い換えれば「本業への貢献」を適切に定義・評価するための前提やベクトルの整理が重要です。

 戦略リターンは、たとえば以下のようにカテゴリーわけができるでしょう。

  • 既存事業や商品の付加価値向上
  • 新規事業創出のための情報収集(連携相手探しなども)
  • 競合取り込みによる市場シェア維持・破壊的イノベーションへの早期対応
  • コスト削減への貢献

 CVC活動には、M&A(本体への取り込み)に至る前段階として、協業や買収候補探索の役割を担う側面もあります。ただ、日本ではリアルな選択肢として「スタートアップのM&A」の存在感が薄く、本体へ取り込む機会が限られていることも「シナジーを生み出せていない」と帰結される原因の1つと考えられます。

 しかしながら、上記のような整理を通じて、シナジー獲得手段は自社によるM&Aだけではないという認識を持つ企業もあるはずです。

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この記事の著者

堂前 泰志(ドウゼン ヤスシ)

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