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再現性のあるイノベーション経営の型

企業の垣根を越えたイノベーション創出を仕組み化する──経営者イノベーション・ラウンドテーブル【中編】

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ステージゲートとイノベーションの相性

 各テーブルでは、さまざまな企業の具体的な事例が紹介された。

 社内システムの構築に正面から取り組む例もあった。社内にステージゲートを設置し、イノベーションのパイプラインを整備している企業の事例だ。この5年間で整備されたこの仕組みでは、手を挙げた社員が自主的に取り組むフェーズ、上司がコミットするフェーズ、そして最終的には経営陣も巻き込むフェーズが整っている。

 現在は、評価メトリクスの構築に取り組んでいるという。ゲートごとの評価の際に主観のみで新規事業のアイデアを評価すると対立につながるため、顧客視点を取り入れ、実際のクライアントや市場の声を基にした議論が行われていると紹介された。

 同時に、ゲートができたことで、プロジェクトごとの通過率を分析し、成功時の利益を見積もることで、財務的な視点から必要なプロジェクト数を逆算することが可能になったと述べた。その結果、アイデアや事業だけでなく、ポートフォリオや会社全体の視点での議論が可能になってきたという。

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画像出典:STEAVE BLANK.com「How companies strangle innovation – and how you can get it right」より/クリックすると拡大します

 2023年開催の「IMS SUMMIT 2023」で、キーノートスピーカーのスティーブ・ブランク氏は、試行錯誤を前提としたイノベーションパイプラインとしてこの図を例示した。これらは、リニアなプロセスではなく、試行錯誤しつつイノベーションを具現化していくシステムの例だ。

適切にリスクを回避するための撤退の仕組み

 他にも、事業撤退の判断に数値指標を用いる例も複数紹介された。シリコンバレーでは市場原理による自然な撤退が進む一方、日本の企業内インキュベーションでは撤退が難しい。資金を次の投資につなげるためには、撤退も戦略的に判断しなければならない。ある企業では、数字指標を導入して5年ほど経つが、ようやくその取り組みが根付いてきたと述べる。他にも、2期連続の赤字が撤退の基準だという企業もあった。

内製とスタートアップとの協業の両輪

 ある企業では、現業での創意工夫に加え、社内コンペティションや外部とのコラボレーションを活用し、社員が自由にアイデアを提案できる仕組みを整備した。これにより数百件のアイデアが集まっているという。

 また、社内起業支援制度を設けた企業の例も挙げられた。この制度では、社内で新規事業を立ち上げる際に会社が身分を保証し、最大3億円までの資金を使用できるもので、現在進行中のプロジェクトが4件あり、順調に進んでいるとのことだ。

 別の企業では、内部開発とコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が同じ役員によって統括されている。以前は別々に扱われていたが、現在は一元的に管理されており、予算の効果的な配分が課題とされている。この分野では、大企業が新規事業を開発することは稀であり、スタートアップが主導するのが世界的なトレンドだ。この状況に対し、日本企業はどのように対応すべきか悩んでいると率直に述べ、単なる模倣ではうまくいかないとの考えから、内製を維持しつつ外部からの取り込みに積極的になっている。

 また、従来の社内開発に固執していた方針から、スタートアップとの連携を重視する戦略に転換した企業もある。かつては不足部分を補う形でスタートアップを買収していたが、現在は競合する可能性があっても、自社開発とスタートアップの両輪で取り組む方針を採用している。

 この考え方に同意する意見も他から上がっている。従来は属人的な内製に依存していたが、現在はシステマティックな新規事業開発へのシフトが始まっている。システム的なアプローチが社内に浸透すれば、自然と外部リソースを活用するようになると期待されており、まずはシステム活用の意識を広めることに注力しているという。

 一方で、日本の大企業の多くが、多岐にわたる事業を展開しているため、M&Aによる新規事業の取り込み時には、既存事業との衝突が避けられない。既存と新規事業の両立が大きな課題となっているという。他にも、実例が多く挙げられるなかで、既存事業を維持しながら新しい挑戦を進めることが、大企業にとっての挑戦であると浮き彫りになった。

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試行錯誤の成果としてのイノベーション・マネジメント

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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