システマティックにイノベーションを生むには、システムと推進役がともに必要
パネルディスカッションでは、IMSの専門家であるAmplify CEO兼エグゼクティブ・イノベーション・マネジメント・エキスパートのグンナー・ストーフェルト氏、aiRikr Innovation AB創設者のヨハン・グルンドストロム・エリクソン氏、そしてJINの尾﨑弘之氏が登壇。
最初に登壇したAmplify CEOのストーフェルト氏。スウェーデンを拠点にJINと連携し、イノベーション・マネジメントの普及とそのためのプロフェッショナルの育成に注力している。同氏は、基準や要件、ガイドラインだけでは現実的な成果を生み出せないと指摘。その実践には、それらを解釈し、行動に変換できる専門知識を持った人材が必要であり、これらの人材を「イノベーション・マネジメントプロフェッショナル(IMP)」と定義した。
ISO56001は、50カ国以上のIMPの知見やスキルを体系化することで作り上げられたと同氏は説明する。プロジェクトマネジメントや品質マネジメントなどのように世界的にも定着しているものとは違い、イノベーション・マネジメントは新しい組織機能である。だが、すでに集団としての知識はある程度蓄積されている。その知識を体系化し、共通言語と行動フレームワークを提供するものが同シリーズだと説明した。
次に同氏はIMPが新たな職業として確立されつつある現状に関して、スウェーデンを例に挙げて説明した。同国では公共および民間組織がIMPを雇用し、その役割を明確に定義したジョブディスクリプション(職務記述)を整備している。これにより、IMPに求められるスキルや能力が明文化され、基準に基づいたトレーニングプログラムの設計が進んでいる。またスウェーデン王立研究所(RISE)などがIMP認証を提供していることもあり、政府や民間企業におけるIMPの雇用が増加している。
IMPに求められる役割とその専門性
イノベーションを組織的に推進するための専門家であるIMPは、戦略策定からプロセス構築、スキル開発、教育に至るまで、体制構築とコンピテンシー確立のための幅広い役割を担う。その職務内容は組織の階層によって異なり、経営層ではチーフ・イノベーション・オフィサー(CIO)として全体戦略を統括し、部門責任者は活動ポートフォリオを管理、現場マネージャーは特定部門での活動を促進する。また、ファシリテーターやコーチであれば現場運営やチーム支援を担当する。
スウェーデンでは2010年代初頭にIMP協会が設立されたのち、職域の確立や知識共有を目的とした活動が進められてきた。たとえば、同協会はオンラインプログラムやワークショップを通じ、IMS(イノベーション・マネジメントシステム)の導入を支援するほか、生成AIを活用した効率的なノウハウ共有にも取り組んでいる。
ストーフェルト氏は、同協会以外にも、自身が率いるAmplify社で数多くの取り組みを推進する。Amplify社が提供するイノベーション・マネジメントプログラムでは、ボルボ、SAAB、ABB、エリクソンなどの技術リーダー約40名が年2回参加し、IMSの実践的知識やリーダーシップを学んでいる。さらに、Amplify社のエグゼクティブスクールでは20年以上にわたり、企業や公共部門の意思決定者向けにトレーニングが提供されている。