新しい職能としてのIMP(イノベーション・マネジメント・プロフェッショナル)
ストーフェルト氏、エリクソン氏の講演を終えた後、尾﨑氏を加えたディスカッションが行われた。
まず、質問を受けたエリクソン氏は、自身がIMPとしての役割を理解し、受け入れるまでの経緯を語った。当初は、「イノベーション・マネージャー」という肩書きに戸惑いを感じていたが、企業変革を推進するために、リーダー層との協働や新たなアプローチが求められる役割であると徐々に理解していったという。ちょうどIMP協会設立の時期と重なったこともあり、自身がイノベーション・マネージャーであることを自覚し始めたと語った。
その上で、自身および自社の経験を知識として体系化し、他のIMPが実務で活用できるようにする必要性を感じ、今回の規格化に代表される、形式知の構築に乗り出した。これは一部の特権的な情報ではなく、IMPが各組織の状況に応じて成長できる共通基盤として共有されるべきだと述べた。
また、ストーフェルト氏によると、スウェーデンでは現在、IMP協会に約350名が登録しており、未登録者を含めると1,000人以上が活動している。また、同協会の尽力によってIMPの職域が確立されたことで、業界の枠を越えたIMPのキャリアパスも広がった。エリクソン氏がIKEA(イケア)からエリクソンに転職した例がその象徴だ。ストーフェルト氏は、業界を問わず活躍できるプロジェクトマネージャーのように、IMPも業界を問わず活躍できると強調した。
それに加えて、エリクソン氏は、IMPがキャリアを形成する上で、企業が成長機会を提供することの重要性を強調。好奇心と知的探究心を持つ人材が、整備されたトレーニングやツールを活用することで、よりスムーズに新たな役割に適応できると述べた。
両利きの経営にはイノベーション・マネジメント・システムが不可欠
ストーフェルト氏は、「先陣を切ったスウェーデンでは基準や認証制度が確立されるまでの道のりは長かったが、規格化をはじめとして知識の体系化が進んだ現在、スウェーデンと比較して日本ではより迅速にイノベーション・マネジメントの文化釀成や業界構築が可能だ」という。
同氏は「IMSは効率性と革新性を両立する『両利きの経営』を実現するための基盤である」と言う。IMSが提供するスタンダードや共通言語によって、戦略的・戦術的なイノベーション活動と日常のオペレーションを同等に重視する環境が整う。逆に、このフレームワークがなければ、両立は非常に困難だと付け加えた。
エリクソン氏も、過去の日本企業との協業経験を振り返り、イノベーション・マネジメントを体系化することの効果を指摘。コミットメントを可視化し評価できる環境や、既存の資産やスキルを最大限活用できる環境を整備することが重要だと述べた。
従来の品質管理システム(QMS)だけでは新たな課題や顧客ニーズに対応しきるのは難しい。IMSによって品質管理とイノベーション活動をバランスよく統合し、品質管理で日本企業が培ってきた課題解決の力をイノベーションにも活かすことが重要だと語った。
さらに、ISO56001の発行による変化についても議論が行われた。ストーフェルト氏は、統一フレームワークの提供が大きな前進である一方、単なるチェックリストとして使用するだけでは十分な効果が得られないと指摘。それぞれの要素が組織全体でどのように機能し、システムとして連携するかを深く理解し、組織全体で取り組むことが不可欠だと述べ、セッションを締めくくった。
後編のレポートでは、イノベーション分野の専門家、大嶋洋一氏(東京科学大学副学長)と紺野登氏(JIN代表理事)が登壇するパネルディスカッションの模様をお届けする。