寄り添うからこそコンセプトを大切にできた
──和佐田さんが伴走されて、廃棄装花の再活用アイデアはどのように変わっていったのでしょうか。
和佐田:「装花としてオフィスに置く」というアイデアは、コスト構造や既存の競合サービスを考えると難しいところがありました。ロスになる花を加工するという点で生花よりも価格が上がりますし、日本の現状では「それでもサステナブルだから買おう」ということにはなりづらいです。
ただ、新井さんの元々のコンセプトにあった「幸せのバトン」という世界観がいいな、これを活かす方法が何かあるだろうな、とも思っていました。
新井:ウェディングで使用した花が廃棄されるのではなく、サステナブルな花にアップサイクルすることで「幸せのバトン」をつなぐ、というのが初期のコンセプトでした。
和佐田:廃棄されてしまう装花というのが実際どんな状態で、どんなプロダクトが作れる可能性があるのか。その現実を知らない状態ではいくら素晴らしいアイデアであっても机上の空論です。そこで、販売のPoCアイデアを模索しつつまずはこの調達・加工のPoCに取り組むことにしました。具体的には、国内のさまざまな結婚式場にヒアリングを行ったり実際に廃棄場所を見せていただいたり。すべての式場が共感・賛同してくれたというわけでもなく、この時期は先が見えなくてなかなか苦しかったですね。ですが、加工の部分で素晴らしい協力会社さんに出会えた運もあり、なんとかプロダクト化の可能性は見えてきました。
そこで次に、実際に式場から花を回収して加工してみようとなったのですが、もちろん何の仕組みも存在しないのですべて自分たちでやることになります。新井さんのツテで実際の結婚式を訪問して廃棄されるお花を回収。生花をできるだけ傷まないように梱包してクール便で加工会社さんに送る。PoC、といえば聞こえは良いですが、実際は1歩ずつ手探りでかなりアナログな感じで進めていきました。そうやってなんとか回収した花を使って協力会社さんから「サンプルできました!」と写真付きレポートをいただいた瞬間は嬉しかったですね。と同時に、「あれ、この体験そのものが貴重なんじゃない?」という発見があったんです。おそらく世の中の大半の人にとっては知らない世界。こういう体験自体をコンテンツとして提供できたらいいんじゃないか、というアイデアが出てきて自然にそちらの方に発展していきました。一見行き当たりばったりにも見えますが、実際に自分たちで動いてみて発見した価値に基づいたピボットです。
新井:くわえて、売り物としてのプロダクトを作ろうとする観点では、式場の廃棄装花の中でもドライフラワーにできる花は非常に少ないという問題がありました。そこで、少ない量でもできるものとしてお守りなどの授与品などにしていくアイデアも同時並行で展開していきました。
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初期アイデアのコンセプトを残して、どんなピボットをしたのか
──今後、廃棄装花の利活用アイデアは授与品や体験コンテンツとして展開していくのでしょうか。
新井:はい。STUDIO ZEROさんのご支援の結果、体験コンテンツについては別の方向性でブラッシュアップを進めています。授与品制作についても神社関係者の方から前向きな言葉を頂戴しております。地域のため、未来ある子供たちの環境を守るために一緒に何ができるか検討を進めています。
──それは素晴らしいですね。どのような内容ですか。
新井:授与品制作については、結婚記念日や長寿祝いなど節目節目のサイクルごとにコンテンツを増やすことができるデジタル型のお守りを検討しています。購入者を限定していませんが、最初は挙式を終えたご夫婦に販売していきたいと考えています。
体験コンテンツについては、廃棄されている現状を視察し、活用を考える「ワークショップ」として検討を進めています。手を動かし体験をすることで、廃棄される花の現状を入り口にSDGsの重要性について知り、一人ひとりの行動変容に繋がるきっかけを提供したいと考えています。
和佐田:体験コンテンツの方はさらに、たどり着いたアイデアがただの仮説ではなく価値を感じてくださるお客様がちゃんと存在するのかを確かめるために、既存部門の取引先で実際に有料のワークショップを開催してみたのですが、とても好評でした。JTB社は既存事業でさまざまな顧客接点があります。これはまさに大企業ならではのネットワークですよね。