パナソニックのデザイン組織の変遷
岩嵜博論氏(以下、敬称略):パナソニックは、2022年に臼井重雄さんがデザイナー出身者として初めて執行役員に就任されるなど、デザインへの取り組みが一歩先を行っている印象です。まずは、木村さんの経歴からお聞かせいただけますか。
木村博光氏(以下、敬称略):私は1994年に入社して、“いわゆるプロダクトデザイナー”のキャリアを歩んできました。入社後は黒物家電(カメラやビデオなどのAV機器)を中心にデザインを手がけ、2010年にはロンドンに赴任。グローバルデザインディレクションを担当し、欧米におけるデザインのトレンドや位置付けを学びました。その後、日本に戻り、2017年ごろから現在に至るデザイン変革の活動に取り組んでいます。
岩嵜:黒物家電のデザイン拠点は、以前は大阪にありましたよね。
木村:ええ。大阪の門真市ですね。一方で、白物家電(調理機器などの生活家電)のデザイン拠点は滋賀県草津市にありました。この2つのデザイン拠点が2018年に統合され、地理的にも中間に位置する、今回インタビュー受けている「Panasonic Design Kyoto」が設置されました。
岩嵜:デザイン変革を推進するなかで、そうした体制変更や機能の集約があったと思います。現在に至るまでのパナソニックにおけるデザイン組織の変遷を教えていただけますか。
木村:2000年ごろまで遡ると、各事業部にデザインセンターがバラバラに設置されている状態でした。そのころにも各デザインセンターを統括する部門はあったのですが、それからグループ再編など、いくつかの変化がありました。大きな変化のきっかけはデザインの領域が拡張していったことです。デザインがプロダクトの領域を飛び出して、UXやR&D、未来構想などに拡張していくなかで、これらの領域全体をカバーする組織体制が求められるようになりました。
こうしたなかで、2019年にパナソニックの一部門として、デザイン本部が設置されました。デザイン本部は、パナソニックのなかの各事業会社に加え、各グループ会社のデザイン組織を直接統括します。また、従来は別部門だったコミュニケーションデザインの機能を吸収してコミュニケーションデザインセンター(CDC)を設置したほか、R&Dを担うトランスフォーメーションデザインセンター(XDC)を立ち上げるなど、プロダクトデザインに留まらない機能を包括しています。これにより、プロダクトからUX、R&D、ブランディング、未来構想までを、一気通貫で実践できる体制を築きました。